科学技術×子×ミュージシャンの可能性: 気象予報士・防災士&保育士&歌手の最近の取り組み
はじめに
奥村 政佳と申します(図1)。大阪出身です。昭和53年生まれ、36歳、独身です(会場から笑い)。気象予報士の資格を1995年の17歳の時に取りました。日本で初めての高校生の気象予報士だったので、ひょっとすると、その時にいろいろな新聞やニュースでご覧になっている方がいるかもしれません‑
自己紹介
今回、「科学技術×子×ミュージシャン」ということで、科学技術コミュニケーションをもじった演題でお話をしていきたいと思います。私の本職はミュージシャンです。RAGFAIRという、アカペラのボーカルグループで活動しています。アカペラの中でもボーカルパーカッションといって、口でドラムの音を表現することで生計を立てていますが、実は他に気象予報士、防災士、保育士の資格をもっていますし、いろいろやりたいことがあって2012年にCoSTEPの8期選科Aで一緒に勉強させていただきました(図2)。
歌手として 気象予報士として
RAGFAIRはアカペラボーカルグループです。ハモネプというアカペラの選手権があり、その中で2001年にデビューをしました。2002年には紅白歌合戦にも出させていただきました。1回だけだったのですが非常に貴重な経験になりました。今は審査員をやらせてもらいながら、たまにテレビに出て、ミュージシャンとして活動をしています。日本武道館でライブをやったこともありまして、3時間半ほど1万人の前でアカペラをやりました。その他にジャズグループ「So Cool」として活動しています。
気象予報士としても活動しています。TBS系列で「そらナビ!」という天気予報に関する1時間番組がありました。気象予報士が5人も6人も集まって1週間の天気を、日本中の天気をいろいろと予報して、当たった、当たっていないと話す番組です。名古屋ローカルで視聴率が18%ぐらいの日もあるほどで、やはり人間の生活とお天気というのは切っても切り離せないなと感じた出来事でした。
歌手の気象予報士はなかなかいないので、いろいろなイベントに呼ばれます。普通、天気予報のキャスターというのは各局に紐づいています。NHKはNHK、TBSはTBS、日テレは日テレというかたちなのですが、その中で僕は歌手枠として呼ばれて、防災についてもちょっと啓発活動などもしています。気象サイエンスカフェといった活動にもモデレーターなどで参加したりしています。
保育士として
実は、最近一番時間を費やしているのが保育士の仕事です。元々大学時代に4年間、保育園でアルバイトをしていて、その経験があって、ずっと勉強したいとは思ってはいました。しかし、なかなか歌手の活動もしながら専門学校には行けません。年に1回の試験だけはずっと受けて、6年かかってようやく合格しました。
たまたま知り合いに「週1回でいいから、手伝ってくれないか」と横浜の保育園に誘われ、「週1回でもやってみたい」と言って手伝うことになりました。ゼロ歳児から5歳児、47人いる保育園です。皆さんご存じの通り、横浜は待機児童ゼロを目指しています。保育園がいっぱいできて児童ゼロになりました。でも働く人がいません。そうすると、お子さんがいるお母さんが保育園の先生もやっていることが多いのですが、時間がフレキシブルに使える独身男性というのはいいように使われます。私はいま保育園の中で一番働いています(笑)。
科学技術×子×ミュージシャン
「科学技術×子×ミュージシャン」ということで、お話をしていきたいと思います。今回は最近「合わせ技」でやった二つの例を挙げたいと思います。
アウトリーチは「会うとリーチ」?
一つ目は、2013年の6月に東京都港区から依頼があって参加した「エコライフ・フェアMINATO2014~エコdeみなとく(特・得・徳)つなげよう!広げよう!エコの輪」というイベントです。この中で、環境バラエティステージというのがありました。環境バラエティとは何ぞや? 環境教室でもないし、バラエティでもない。これを仕切っていた知合いに、「環境バラエティ、できるのは君しかいない」と言われ、急遽呼ばれました。その時にトークの合間にIPCCの第5次評価報告書の話をして欲しいと言われました(笑)。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書とは、いわゆる気候変動に関する研究者の集まりが作成したレポートです。第4次評価報告書を出した後に、IPCCはノーベル平和賞を取ったので、それで知っている方もおられるかもしれません。
そのときは、一緒に「So Cool」というジャズユニットを組んでいるピアニストの松永貴志君と2人で行って、2曲やってはIPCC報告書の話をし(会場から笑い)、2曲やってはメキシコ湾流の話をし、みたいな感じでやりました。当然、分からないことが、いっぱい出てくるわけです。専門用語もいっぱいありますが、みんな聞いてくれていました。当日は天気もよくて、家族連れもいっぱいました。普通だとそんな話だと座ってもくれないのですが、一応ジャズのライブがついてくると、とりあえずは椅子もあるので座ろうかとなるわけです。基本、音楽を聞いているかもしれないけれども、とりあえずトークの間も座ってくれます。
よくアウトリーチと言いますけれども、とりあえず座ってもらうことがアウトリーチ、「会うとリーチ」につながるのではないか、音楽と科学技術コミュニケーションの合わせ技は使えるのではないか、と思っています。
子供たちに一番身近な科学「おてんき」
そして、もう一つの話題は保育現場で最近、取り組んでいる「科学技術コミュニケーター×保育士」です。僕のクラスには18人の子どもがいるのですが、普段、お散歩に行くと、いろいろな生き物に会ったり、いきなり黒い雲がやってきて雨が降り出したりとか、子どもなりにいろいろ不思議なことがおこります。その中で子どもにいろいろなことを聞かれるので、一番身近な科学「おてんき」について取り組んでみようと思いました。
子どもにとっては、お天気の情報というのは僕たちが思うよりもウェイトが高いのです。僕たちは雨が降ったらタクシーに乗ってしまえばいいし、地下鉄に乗ればあまり関係ありません。営業の方は別ですが、大体朝通勤してからは室内にいることのほうが多いでしょう。子どもにとっては、お散歩ができるかどうか、プールに入れるかどうか、遠足に行けるかどうか、明日長靴を履いていくかどうか、お気に入りの傘は持っていけるか、レインコートにするか、お迎えでお母さんが自転車で来るのか、傘で来るのか、といったことは非常に重要です。子どもは雪が降ったら喜びますし、雷が鳴るとお昼寝せずにずっと泣いている男の子もいます。やはりお天気というのは、僕たちが思うよりも非常に生活に密着していると思います。
最近は、僕なりに保育園のピンポイント天気予想を毎日しています。テレビで雨と言っていても、午前10時から午前11時までお散歩に行けるかどうか、保育園の看板を外に出すかどうか、その辺を朝にチェックをしなければならないのですが、関東圏の予報はざっくりしたものも多いです。一方、子どもは子どもでテレビの天気予報を見て、保育園にやってきて「先生、今日は雨が降るぞ」「お散歩には行けないよ」と言います。横浜では雨は降らないはずなのに、栃木の雨の情報を見て「雨だ」と言っているので、僕は言うわけです「行けるよ」と(笑)。
そういうやりとりがあった時に、天気予報というのは生まれて初めて出会う科学技術コミュニケーションのひとつではないか、と思いました。要するに情報があり、それをどのように使うかということを、4歳ぐらいからやっているわけです。
3歳児からの科学技術コミュニケーション
そういうわけで、3歳児から取り組む科学技術コミュニケーションをやってみようと思いました。3歳児ってどんな感じか想像できますか? なかなか想像できないと思います。〈以下上映ビデオ書き起こし〉
奥村: ○○君、○○君、奥村先生。
園児: おくるま先生。
奥村: 奥村先生。
園児: おくるま先生。
奥村: こっちおいで。行くよ、奥村先生。
園児: おくるま先生。
奥村: おくむ。
園児: おくむ。
奥村: おくむら。
園児: おくるま。
奥村: 何で?おくむ。
園児: おくむ。
奥村: おくむじゃない。むら、むら、むら。
園児: むら。
奥村: 奥村。
園児: ら。
奥村: むら。
園児: むら。
奥村: 奥村。
園児: おくるま。
3歳児だと、言葉もなかなか言えない部分もあるのですが、彼らを対象に水の三態を教えてみようと思ったわけです。これがうまくいけば、天気予報や天気の仕組みに少しなりとも興味を持ってもらえるのではないかと考えました。僕は17歳で気象予報士の資格を取りましたが、実はスタートは4歳の時でした。学研の漫画『天気100のひみつ』を見て、お天気に興味を持ったのです。それと同じぐらいの年だし、ちょっとやってみようかなと思ったのです。
やりたかったのは結露の実験です。ビニ-ル袋に水を入れると、当然ながら水は漏れてきません。でも、氷を入れた水をビニール袋に入れてしばらく置いておくと、周りに露がついてきます。実は、空気中にも水はあるということを第一段階として実験してみました。その続きとして、濡れているかどうかを、黒い紙にビニール袋をくっつけて色が変わるかどうかで表現しました(図3)。
この後、どうやらビニール袋の中から出てきた水じゃないぞという話になりました。このように興味を持ってもらえば、こちらはしめしめです。今後ペープサート(紙人形劇)やいろいろなものを使って、少しでもこの水の不思議というものに触れていければいいなと思っています。
子どもの集中力は10分しかもちません。やはり新しいものに目移りしますし、挙手もせずに発言をします。なかなか物事が進みません。でも、好奇心は十分にあるのです。その10分間の好奇心タイムを、ずっと定期的に繰り返していけば、子ども相手のサイエンスカフェもできるのではないかと最近思っています。
保育園での科学技術コミュニケーション
保育園に入ってみて思うことがあります。制度が問題と言っているわけではないのですが、保育園の先生は、大体が専門学校か短大で保育の勉強をしてきた若い先生です。そのため、歌手の先生だったり、気象予報士の先生というのはなかなかいません。でも、そういういろいろな特技を持っている先生がたくさんいて、子どもたちの感受性が豊かな時期にそういう人に触れると、何かいろいろなおもしろい発見をしてくれるのではないか、そういうことを思いながら、最近はやっています。いろいろなことを知っている先生というのは、保育園の先生としてはスキルが高いのかなと思いますが、そういう先生が増えて欲しいなと思っています。CoSTEPでも、20年後、30年後にはいろいろな福祉や保育の専門学校への出前授業があるといいな、と思っています。
科学技術×子×ミュージシャンまとめ
最後に、「科学技術×子×ミュージシャン」をまとめます。僕が4歳からお天気に興味を持ったように、何かしら興味を持ってもらえるような「3歳からの科学技術コミュニケーション」の仕組みができればいいなと思っています。次に大事なのは、科学技術のイベントは「合わせ技一本」を目指すことです。極端な話、お金を払うから座ってくれでもいいと思うんです。会ってリーチしないといけません。どうやってお客さんを座らせるか、呼ぶか、興味を持ってもらえるかと、いうことが非常に大事だと思います。ありがとうございました。