CoSTEPの「成功」を確信した瞬間
渡部 潤一
国立天文台教授・副台長
2015.3.18
札幌の知人に天文界で有名なWさんという人がいる。アマチュアながらWさんの天体観測や解析スキルは、そのあたりのプロを遙かに凌駕しており、これまで多くの小惑星を発見し、北海道にちなんだ名前を国際天文学連合に申請・承認されてきた。それにちなむ本を出版したり、各地で講演を頼まれたりしている。
そのWさんが、突然に北海道大学に通い始めたというから驚いた。すでに歳も中年の域に達しており、いまさら天文学でもあるまいと思い、驚いて問うと、CoSTEPだというので、とても納得した覚えがある。もともと科学の面白さを追求するのにプロもアマも関係ない。特に天文学や生物分類学などはアマチュアが大活躍している分野だ。そんな分野の先頭を切っているWさんが何かを考え、自らを高めると同時に、自ら楽しんでいる科学を通じて社会に貢献してみようとCoSTEPの門を叩いた。それだけで成功だ、と思った。CoSTEPの意義はそんなことだけではないのはもちろんだが、少なくともそういった優れた人材を惹きつけるだけの魅力があったことは確かだったのだろう。
専門分野がどんどん狭く、深くなっていく科学技術の状況の中で、科学技術立国をめざす日本として、科学を社会へ発信する重要性はますます増していくはずである。形は変われど、科学技術コミュニケーションの将来を担う人材をどんどん輩出して欲しいと願う。