2. 挑む31. 『鈴木 章 ノーベル化学賞への道』
その後、早岡さんが映像作品「有機合成が変えた世界 —化学のフロンティアを切り拓く—」の制作を進める。ナレーションは滝沢 麻理さんが担当した。大津さんは宮浦 憲夫 氏(工学研究院 特任教授)とともに「クロスカップリング反応」を説明するアニメーションを制作する。このあたりの経緯は、別のところⅹⅻⅰに書いたので、ここでは省く。
メディアでの報道は、「鈴木先生は高校時代、通学の列車の中でも本に読みふけり、二宮 金次郎みたいだった」など、個人的なエピソードに傾きがちであった。CoSTEPとして、もっと研究の中身に分け入った情報発信をすべきではないか。そうした思いから、鈴木先生の研究業績を、時代背景や、国内外の研究動向にも触れつつ紹介する冊子を、電子書籍として制作しようと考えた。
「旬」であることが重要だと思い、1ヶ月程度での完成を目指し、 すぐに作業を開始した。鈴木 章 先生が著者になっている論文や、カップリング反応に関する雑誌記事などをできるだけ網羅的に収集、新聞記事データベースで関 連情報を検索、鈴木先生が関係する学部学科の「年史」や「同窓会誌」を図書館から借り出すなど、大学人ならではの地の利、土地勘を活かして、情報をかき集 めた。(借り出しの作業などは、鳥羽妙さんにも一部手伝ってもらった。)
電子書籍なのだから、早岡さんの動画と大津さんたちのアニメーションを本のページ内に組み込みたかったのだが、そのように作成する機能がソフトウエアにまだ備わっていなかった。やむなく、リンクをクリックすると別ウインドで表示される形にした。
公開したのは、11月10日である。早岡さんが制作した各種ビデオもあわせて視聴できる、ノーベル賞関係の特設ウエブページを大津さんが中心になって用意してくれた。プレスリリースすると、さすがノーベル賞だけあって、新聞社やTV局などから取材が殺到。多い日には、午前1社、午後2社という状況だった。
その後12月には、書籍版も出した(北海道大学出版会発行)。消費税も含め「500円ぴったし」を狙い「本体477円+税」としたのだが、501円の書店も出てきて目算が狂った。(消費税の端数は「切り捨て」と思っていたら、これは「原則」でしかなかったという次第。)