2020年01月31日

活動報告

討論劇と評決ワークショップ「“わたし”は機械で取り戻せるのか? ~討論劇で問うブレイン・マシン・インターフェース開発の是非~」を開催しました

四倉直弥(2019年度 本科/学生)


2019年1月26日(日)14時より、札幌市資料館 刑事法廷展示室にて、CoSTEP対話の場創造実習 劇団DoSTEP2019のメンバーが中心となり、討論劇と評決ワークショップ「“わたし”は機械で取り戻せるのか? ~討論劇で問うブレイン・マシン・インターフェース開発の是非~」を開催しました。当日は午前中の雪も止み、すっきりとした青空の下、54名の観客のみなさまにお越しいただき、立ち見の方も出るほどでした。

 

(討論劇の様子)

 

科学技術について、“あなたも一緒に”考える

 

劇の舞台は2030年、社会的に影響の大きい科学技術開発を進めるかどうかを、市民自らが議論し決める場として市民法廷が開かれることとなりました。今回のテーマは認知症の治療のため、脳に機械を埋め込み患者の認知機能を補完する技術「ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)」の基礎研究を進めるかどうかでした。法廷は陪審の代表となる代理人からの質問に対して、肯定側・否定側・認知症介護の当事者の代表が答える形で進んでいきます。BMIによって「記憶や自立した生活を取り戻すことができる」と肯定側は主張しますが、否定側は「弱者を認めない不寛容な社会を作り出す可能性を持つ」と警鐘を鳴らします。一方で当事者代表はそもそもこの技術によって「“わたしらしく”生きることができるのか」と大きな問いを投げかけます。

 

 

“わたしらしさ”とは何だろう?

 

“わたしらしさ”は脳に機械を入れることで変わるのか? もし変わるのならばそれは良いことなのか悪いことなのか? “わたしらしさ”について、議論は白熱していきます。肯定側は「その人らしさが変化しても、機械を入れると本人が決めたのならば問題ないのだ」と言い、否定側は「外的な機械によってその人らしさが変化することは人間の尊厳に関わる」と言います。対して当事者は「わたしらしさは脳にあるのではなく、人との関係性にあるのだ」と主張します。いったいこの技術は、社会をそしてわたしたちを幸せにするのだろうか? 劇は陪審員である参加者の皆さんに問いを投げかけたまま一度幕を下ろします。

 

 

 

 

それぞれが“自分ごと”として考える

 

陪審員の皆さんは約40分の観劇後、5班に分かれ評決を考える「評決ワークショップ」を行いました。ワークショップでは今回のテーマBMIの基礎研究開始の是非について陪審員それぞれが立場を述べその理由を話しました。陪審員の皆さんは議論を通じて時に意見を戦わせたり、相手の意見に納得し意見を変えたりしながら約50分の“おしゃべり”を楽しんでいるようにも見えました。最終的に班ごとに各自の意見をすり合わせ一つの評決へと意見をまとめていきます。そうして「評決ワークショップ」は終わり、討論劇・判決編へと再び幕が上がります。

 

(評決ワークショップの様子)

 

“わたしの大切なもの”を取り戻すには?

 

各班の代表の方には劇中、陪審員として各班の評決とその理由を発表していただきました。その結果、脳の認知機能を補完するBMIの基礎研究の開始に対して賛成4、反対1で基礎研究の開始を認めるという評決が下されました。しかし、「能力増強につながらないように規制する」「BMIが脳に及ぼす影響を考えながら研究を常に評価・監視する」といった条件も提示されました。そしていよいよ劇はフィナーレを迎えます。そこでは肯定側も否定側も「認知症になった大切な人」を抱えていて、それぞれが自分の考えの下、その大切な人を救おうとしていたという事実が明かされます。大切な人との大切な関係を取り戻すために必要なものとは? 劇は二人が幸せになれる道を共に模索する姿を残し、幕を下ろしました。

 

(評決の発表)

 

(ラストシーン)

 

“当事者の声”に耳を傾け、“価値観”に目を向ける

 

今回劇を作るにあたって様々な人にお話しを伺いました。中でもNPO法人北海道若年認知症の人と家族の会の平野雅宣さん、平野憲子さんに伺った認知症の話は大変貴重でした。認知症にならない技術や認知症を根治する薬ができるのであれば是非開発してもらいたいし、そうした技術は必要です。しかし認知症になったときにどう付き合っていくかを考えることも同じく大切なことです。そしてその付き合い方も人の個性の分だけ道があるのです。こうした当事者の声を聞くことは私達が科学技術を誤って使わないためにもとても大切なことです。しかし、お二人のお話や複雑な心の内は私たちがそのまま言葉で述べても、きっと伝えることは難しかったでしょう。当事者の声から少しづつキャラクター像を練り、劇として表現することを通じて初めて観客の皆さんに伝わったのではないかと感じました。

 

NPO法人北海道若年認知症の人と家族の会を訪問し、お話を聞きました)

 

そして仮に自分が当事者になったとしてもこの科学技術を利用したいかどうかは人それぞれ意見が分かれることでしょう。ワークショップの中でも自然な老いを認めながら終わりを迎えたい人、周りの手に負担をかけたくない人など、様々な意見を持つ方がいらっしゃいました。その意見の違いの裏にはそれぞれが大切にしたいこと<価値観>があります。自分の考えの裏にひそむ価値観に目を向けてみる、そして他者の価値観を知り受け入れる、ということは日常生活では中々できないことかもしれません。各々の価値観に認めあいながら共に未来を作っていく、その難しさと大切さを感じられるようなイベントになりました。

 

 

参加者の皆さん、ありがとうございました。

 

対話の場の創造実習 「劇団DoSTEP 2019」:鈴木朝子・鈴木伶音・本間祐希・四倉直弥・渡邉洋子

 

*このイベントは科学研究費助成事業「演劇を用いた科学技術コミュニケーション手法の開発と教育効果の評価に関する研究(基盤研究C 19K03105)」(研究代表:種村剛)の助成によって実施されている。