実践+発信

モジュール6-2「野生動物にまつわる問題を報道すること」(12/16)内山岳志先生講義レポート

2024.3.21

石田隆悟(2023年度グラフィックデザイン実習/学生)

今回の講義は、北海道新聞社で自然環境の取材を行い、近年はクマ関係の取材を担当する通称「クマ担」として動物と人間に関わる報道を行ってきた内山岳志さんを講師に迎え、『野生動物にまつわる問題を報道すること』と題して行われました。
内山さんは北大工学院を卒業後、北海道新聞中標津支局で知床を中心に自然環境をテーマに取材、後の札幌本社では新型コロナウイルスやヒグマ問題を中心に取材を行い、今年の春まで北海道全土を舞台に自然環境と人間の関わりについて報道してきました。近年動物の個体数回復に伴い彼らの世界と人間の世界の境界が曖昧になってきました。この講義ではヒグマ問題を中心に、野生動物の立ち位置を「保護対象」から「管理対象」にシフトしていく際に報道が果たす使命と発信者としての姿勢を述べられました。

道内の野生動物の現状

「道内にクマは何頭いるでしょうか?」というクイズから講義は始まりました。答えは「1万1700頭」で、ここ30年で倍増しています。「ではエゾシカは?」答えは「69万頭」。過去10万年で最多水準の個体数です。
何頭いるか?という最も基本的な情報ですら、正確に把握することは不可能で、あくまで推定である。そして本当の所は研究者でも分からない、報道される数字を疑うという意識を持つことを内山さんはクイズの回答を発表するたびに説明していました。数字を疑い自分の目撃経験や感覚と照らし合わせる作業をすることは、動物のことを自分事として考えることにつながります。また個体数の観測は変動を知り、管理のための第一歩としても重要です。

もたらされる問題

シカやクマの個体数は増えています。それに伴って人間との軋轢も増えていきます。
交通事故、農業被害、感染症、昔はとにかく自然を守ろうという流れが強かったのですが、近年ここまで被害が増え、適切な生息場所で適切な生息数に抑える必要性が顕在化してきました。
全道で相次ぐヒグマの出没。道東ではヒグマの鉄道事故が散見されるようになりました。また直近でも大千軒岳で北大生が亡くなるなど深刻な事例が発生しました。ここで内山さんから「覚えてほしいヒグマの出現3パターン」を教わりました。
① 長距離移動する若いオス:遠くに行きたいという分散本能
② 老練な成獣:人間は怖くないという経験を積み、人に馴れた個体
③ 子育てする母クマ:子殺しをするオスを避けるため人里に避難
以上の様なヒグマの本能や行動理由を知り、「今日ニュースで登場したクマはどのタイプだろう」と考えることが不必要に恐怖を煽られないために大事だと言います。

それではお待ちかね、OSO18の話題に入りましょう。
今年OSO18/アーバンベアが新語・流行語大賞に入るほど全国的に話題になり、今もっとも有名な個体といっても過言ではありません。今年の春OSO18は意外にもあっけない最期を迎えました。駆除後の調査から若いうちから牛を襲っているかなり肉食に傾いた個体だったことが分かりました。「OSO18怖いね」で終わるのではなく「OSO18だけが肉食なの?他のクマも肉を食べてるんじゃない?」と考えてほしいと内山さんは説明し、明治以前のヒグマは肉食であり、今のヒグマもそうなっているのでは?という可能性を説明しました。

さらに今年道内で発生した2件の死亡事故を踏まえ、「ヒグマが人間を襲う3パターン」についても解説がありました。
① ばったり遭遇:ほとんどの事故はこれ、気づいたときにはクマ側もやるしかない状況
② 子連れの母クマの防衛:本能的に子供を守るために攻撃
③ 積極的な攻撃:好奇心、エサとして認識(今年の事故はこれに該当する可能性が高い)

保護から管理への転換点

事故が目立つようになり北海道はついに、捕獲目標(今年は〇〇頭獲る、など)を決め保護管理政策に「保護」だけでなく「管理」という意味合いを付けました。これまで守ってきた自然や野生動物をコントロールしきれなくなり、ついに戦う必要性が出てきてしまったのです。
具体的な管理策としては「ゾーニング」があります。クマの生息地/緩衝地帯/防除地域/排除地域のようにエリアを分け、衝突を防ぐというコンセプトです。一方で実際は「草刈り」くらいしか実現できておらず、実行力の低さが目立っています。他にも対策の妨げになる物は多く、警察の許可が無いと市街地での発砲ができない警職法の存在、特に「駆除のたびに集まるクレーム」はハンターや行政に多くの負荷を掛けます。クレームのほとんどは該当地域「外」からのもの、国民の捕獲駆除への理解、合意が急務となっています。

報道することの課題
(報道について説明する内山先生)

そこで、大きな役割を果たすのが報道です。クマ問題報道の使命の1つにヒグマの存在そのものや対策の実行に対する合意・理解を形成することがあります。合意を形成できれば不要な対立を無くすことができます。報道の力だけでなく世論のもつ力の凄まじさを知る内山さん。例えばもしも通学中の子供が襲われ死亡した場合、ヒグマを敵対視する流れはエスカレートし、クマを絶滅させようという意見が出てくる可能性は十分にあり得ると内田さんは言います。野生動物は敵ではありません。もちろん味方でもありません。
また、クマではないものがクマに見える「ゴーストベア」を減らしたいと内山さんは言います。これは人間の本能である怖いものが見えやすくなるという認知作用によるもので、クマ報道を行うと実際に「クマらしきもの」の通報が増えるのです。内山さんは、受信者の「正しく恐れる」姿勢を育てることも報道の役割だといいます。また、私たちも出没背景や人間を襲う理由といった「知識」や「解釈」をあらかじめ知っておくことで、かなりの恐怖を和らげることが可能だと内山さんは語ります。
一方、近年の野生動物問題は未曽有の事態であり、「ここにはクマは出ないだろう」といったようなこれまでの経験が通用しないといった特徴があります。この課題に対してもスピード感を持った対応を行い、北海道を野生動物との共存の先進事例にしていきたいと説明しました。

おわりに

「クマが絶滅してもいいと思うひと?」質疑応答の最後に、内山さんは受講生に問いかけました。手を挙げる受講生はいませんでした。クマに絶滅してほしくない理由は何でしょうか?
多様性の担保?かわいそうだから?自分に害があっても?もちろん生活必需品ではありません。絶滅させてしまおうという動きも本当にあると言います。
クマはいたほうがいいという意見を自分なりの視点と根拠を持って答えられるようになりたい、なってほしいという言葉で本講義は締められました。読者のあなたも今日お風呂に入りながら考えてみてほしいです。「クマって必要でしょうか?」

(質問する筆者)
授業に参加して

クマの唸り声や生臭いにおい、クマスプレーの実戦的な使用法など、最前線ならではの経験談が盛りだくさんでリアルさ全開の講義でした。ヒグマ、野生動物が良くも悪くも(主に悪く)注目されている現状は対話の機会の提供や解決のために動く絶好のチャンスでもあると感じています。過大評価、過小評価をしないためにも自分の意見や感覚、立ち位置を定めた上での発信・受信を心がける大きなきっかけになりました。

(内山先生、ありがとうございました。授業終わりに皆でヒグマポーズで記念撮影)