2020年09月18日

お知らせ

ノーベルからはじまった科学技術コミュニケーション(2020年度新スタッフ紹介③ 小林良彦さん)

2020年9月、CoSTEPに新しいスタッフとして小林良彦さんが加わりました。CoSTEP12期選科B受講生だった小林さん。理論物理がご専門の小林さんはどのようにして科学技術コミュニケーションの実践へと導かれたのでしょうか? そして、ライティング・編集実習担当の小林さんが考えるライティングを通した科学技術コミュニケーションの魅力とは?

 

 

 

――小林さんの専門を教えてください。

 

原子核物理です。原子の中心にある原子核の性質を数式やコンピュータを使って調べる研究です。新潟大学の原子核理論研究室でおこなってきました。原子核「実験」研究室もあるのですが、湯川秀樹やアインシュタインなどの理論物理学者に憧れていたんです。実験データから世界をとらえるのではなく、数式とかを使って世界を探っていく彼らの見ている景色を見てみたいと思ったんです。

 

 

――なぜ理論物理に惹かれた小林さんが科学技術コミュニケーションという実践にも興味をもったのでしょうか?

 

栃木の田舎の出身で、もともと生き物が好きだったんですが、小学生の頃にノーベルの伝記を読んだんです。ひとのためにダイナマイトを作ったけど、それがひとを殺すために使われて、「死の商人」と呼ばれて、無念のなか死んでいった……この話を読んで、「世の中って不条理だな」って痛烈に感じました。社会の中の科学の複雑さというか。

 

そうして、ノーベルに興味をもってノーベル賞受賞者について調べるうちに、湯川秀樹やアインシュタインを知ったんですけれど、科学を最初に意識したぼくの根底にはノーベルがあるんです。ノーベルが社会の中で受け入れられていく過程には、彼によるダイナマイトの発明それ自体とは別の複雑な問題があって、そこにおける科学とか科学者のありかたについてモヤモヤした感じがずっとありました。

 

そして、学部時代の夏休みにあった集中講義で、CoSTEPの杉山滋郎先生(現・理学部名誉教授)とお話しする機会があって、そこでCoSTEPについて知って、また新潟にもサイエンスカフェがあることを教えていただきました。こうしたことがきっかけで「科学技術コミュニケーションを通じて、ぼくのもっていたモヤモヤに向き合えるのではないか」と思うようになったんです。

 

 

 

――実際の科学技術コミュニケーションの活動としてはどのようなものを行なってきたのでしょうか?

 

修士のときに「サイエンスカフェにいがた」に参加してみて、その会のあとの懇親会にも参加して、懇親会でスタッフに誘われて、そのままサイエンスカフェにいがたのメンバーになりました。そのあとでは、自分の専門である原子や元素とかについてのサイエンスカフェで話す機会をいただいたりしました。

 

 

――ライティングによる科学技術コミュニケーションの活動としてはどのようなものを? 

 

これまでの活動だとSNSやブログがあげられます。原子核物理や科学技術コミュニケーションについて、あまり教科書には書いていないようなことについて書きたいなぁと思って書いてきました。CoSTEPでは「いいね!Hokudai」などの個人的なものではない媒体で書けるという経験も得られるので、こうした貴重な機会を生かしていきたいと考えています。

 

(中国の研究会で発表中の小林さん。後ろに憧れのアインシュタインが!)

 

 

――今回CoSTEPのスタッフになろうと思ったきっかけは何だったのでしょう?

 

ぼくは博士課程の3年のときに選科Bの受講生でしたから、CoSTEPの魅力については知っていました。もちろんCoSTEPが科学技術コミュニケーションについて周りの人々と一緒に深めることのできる環境だということもありますが、自分が文章を書くことが好きで、今回ライティングのスタッフをCoSTEPが求めているということだったので、自分が文章を書くという活動に携わっていけるということがとても魅力的でした。

 

 

――科学技術コミュニケーションにおけるライティングという活動の魅力はどのようなものでしょうか?

 

まず文字の情報だと色んなところに届けることができます。小さいころ栃木の田舎にいるとサイエンスカフェなどの科学系のイベントに行ける機会がほとんどなかったんです。それでも、いま自分が科学に興味をもつことができているのは、ノーベルの伝記などの科学に関する書籍を学校の図書室で読むことができたからです。この意味でぼくは文章で伝えてもらえることのありがたさを享受していた側でした。だから、今度は自分が、なかなかサイエンスカフェには行けなくても図書室・図書館や書店には行けるようなひとに届けられるようになりたいとも思います。こういう空間を超えた対話が文字の情報ではできます。さらに、昔の人との対話、つまり時間を越えた対話も文字をもちいればできますよね。

 

それと同時に、自分の内面との対話ができるという点もライティングの魅力です。例えば、元素について書こうと思っても、文章を書く中で、意外に自分の理解が足りなかったり、伝えたいひとに伝わるかなと反省したりするといった、自分の内面との対話ができます。本当に自分が考えたいこと、書きたいことについて、深く時間をかけて考えることができます。

 

 

――では最後に受講生にメッセージをお願いします。

 

昨年、札幌で学会があって、CoSTEPに立ち寄る機会があったんですけど、そこで杉山先生にお会いする機会があったんです。その際、科学技術コミュニケーションの「これから」をぼくたちの世代がつくっていくという点について背中を押していただきました。

 

これまでは、自分はまだ若手だしとか、まだ未熟だしとか考えて、科学技術コミュニケーションについてあまり主張しないという側面があったんですけれど、同じ世代であればぼくもまぁまぁ科学技術コミュニケーションについて勉強、活動してきた方かな、自分が先頭に立ってつくっていくというスタンスでもよいのではないかなと。これからCoSTEPのスタッフとしてやっていけるということで一定の評価もいただけたという自信もあります。受講生の皆さんと一緒にこれからの科学技術コミュニケーションをつくっていきたいと思っています。

 

(国際会議でポスター発表をする小林さん)