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「科学技術コミュニケーションとは何か」(5/12) 川本 思心 先生講義レポート

2019.6.14

渡邉 洋子(2019年度 本科/社会人)

5月12日、CoSTEP15期開始第1回の講義として、生物学者でありCoSTEPの1期修了生でもある川本 思心 先生(CoSTEP部門長)から「科学技術コミュニケーションとは何か」というテーマでご講義いただいた。

まずは「科学技術コミュニケーションとは何か」概要論。CoSTEP設立者である杉山先生の言葉を引用し、「一般市民と専門家が同じ目線で議論できることを意識する」としながら様々な解釈と理解が示された。その目的は個人の楽しみを引き起こす、と言うことから社会全体の意思決定、地球生命を維持することに及ぶなど壮大だ。またその主体は専門家でもあり科学の文化や知識でもある。

そして科学技術コミュニケーターとは何かというと、専門家と公衆のコミュニケーションを確立する人材であり、解説者であり、コーディネーターであり、科学技術記者・博物館関係者などの職業を含む。すでにこの時点で幅広く曖昧ながら、非常に大切であらゆる媒体、活動の場があることが分かった。

では、「なぜ科学技術コミュニケーションという概念が生まれたのか?」。大きな契機として示されたのがイギリスの「BSE(牛海綿状脳症)」問題だ。科学者は「人間に感染すれば甚大な被害」と示しながらも、その可能性は極めて低い、として「人間には感染しない」という社会的認識が広まってしまった。結果、117名が死亡してしまう事態を引き起こす。科学と社会とのディスコミュニケーションが科学への信頼を危機的な状況に陥れた。日本の実例では有珠山噴火のハザードマップについて触れた。1980年代に制作されながらも1995年にやっと配布され、予測が出来ても活用されるとは限らない、という問題が浮き彫りになった。

科学者は「公衆の科学知識の欠如によるものだ」としがち(=欠如モデル)だが、このような科学だけでは解決できない問題を「トランスサイエンス」と称するA.ワインベルグの概念が紹介された。ここに科学技術コミュニケーションが生まれる。では、日本において科学技術コミュニケーションはどう受容されてきたのだろうか? 市民学習、市民活動が社会的背景にあったヨーロッパ諸国とは対照的に、日本では行政からのトップダウンが契機となった。

川本先生のデータによると専門家の認識と市民の関心には大きなギャップがある。関心の高い危機対応科学の不足は認めつつ、平時から科学技術コミュニケーションが常に専門家と公衆の溝を埋め、間をつなぐものでなくてはならないことが明らかになった。

CoSTEPは専門家と公衆、双方による参加、交流、協力、説明を促す機関として設立された。科学技術コミュニケーションそのものが「あいだ」を形作るものであり、個々がその立ち位置によって自分の言葉で語るべきものであることが分かった。