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「生きるためのコミュニケーション」(10/26)後藤 怜亜 先生の講義レポート

2019.11.6

M. I.(2019年度 選科/学生)

今回は、NHK Eテレ「ハートネットTV」のディレクターである後藤 怜亜 先生の講義でした。後藤先生は、長年若年層の生きづらさについて取材され、当事者の言葉から番組を制作する「生きるためのテレビ」に携わられてきました。番組制作の活動事例を交えながら、“取材者”の立場から「生きるためのコミュニケーション」についてお話いただきました。

取材者とは何か

取材者は、「第三者として誰かの人間性に携わること」だと言います。第三者として家族や友達でないからこそ、話しやすい立場にいると考えています。取材をするときには、“となり”で聞き、当事者の方が話しやすい状態をどうつくるか考慮しているそうです。隣に座ることで生まれる“話しやすい空気感”を番組づくりの姿勢にしています。

分かった気にならない・させない

「#8月31日の夜に。」番組内の“夏休み 僕の日記帳プロジェクト”では、10代の人たちに「死にたい」「生きづらい」と思ったときのエピソードを募集しました。「なぜ死にたいのかわからない」という声が、番組にたくさん寄せられたからです。彼らのエピソードを聞くと、「死にたい」「生きづらい」の輪郭が浮かび上がってきます。後藤先生はそれらのエピソードをわかった気にならず、また焦燥に結論づけることはせず、そのままの形で伝え、共感できるものにしたいと言います。「テレビはわかりやすいことを目指してきたメディアであるが、わかった気になってはいけないし、わかったら終わり。」「分からないから知りたいを大切にし、わかんないモヤモヤを共有したい」このようなつながり方や対話の仕方は、“今っぽいコミュニケーション”ではないかと話されていました。この対話の形は、まさに「生きるためのコミュニケーション」なのだと思いました。

コミュニケーションとは「きれいなキャッチボール」よりも「モールス信号の送り返し」みたいなもの

ある当事者の方が「言葉のキャッチボールが難しい」と話すのを聞き、後藤先生は「“きれいな言葉のキャッチボール”ができることがコミュニケーション力なのか」と疑問に思っています。

当事者の方と対話する際には、「即座に出てくる言葉」「その時に上手く返せる言葉」で今を埋めるのではなく、彼らが「来年生きているためにはどうしたらよいか」「10年後どのように思うか」を考え、大きな時間軸や視点で応答したいと話されていました。当事者の方に真剣に向き合い、答える後藤先生のコミュニケーションの姿勢が伺えます。

後藤先生は「不特定多数の視聴者以上に、話を聞かせてくれた一人一人に応答したい」と強く話されていました。具体的には、真剣に話をしてくれた当事者に対し、番組を制作する過程で“答えられているのか”と問い続けているそうです。そしてそのことが番組を作るスタイルやペースを決める一貫した“軸”にもなっているそうです。

当事者の方と近い距離で取材されてきたからこそ、大切にされている“向き合う姿勢”をリアルに感じました。モジュール6の目的である「多様な立場の理解」に重要なエッセンスが詰まっていたように思います。

後藤先生、ありがとうございました。