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科学技術コミュニケーション実践の評価手法

2010.7.4

6月30日の講義では佐々木亨先生(北海道大学大学院文学研究科)に、ミュージアムの運営や展示などの評価手法について、豊富な実践事例をまじえて解説して頂きました。

冒頭にまず、「今日の講義のゴール」として、「自分が担当している事業・イベントで、評価を導入してみよう、または導入できそうだという手応えをつかんだ。」「評価導入の道筋がなんとなく理解できた。」という二項目を記したスライドが示されました。この何気ない導入は、実は「事業の目的・目標を定めなければそもそも評価を行うことができない」という評価の基本原則を踏まえたものであることに、後になって受講生は気づいたことでしょう。

続いて、評価とはそもそもどのような行為であり、何故必要であるか、どのような副次的なメリットがあるか、一方でどのような場合に活かされないかが示されました。また、評価には大きく分けて「事前評価」「形成的(中間)評価」「総括的(事後)評価」の三種類があること、さらに、評価の際の指標として「インプット」「アウトプット」「アウトカム」の三種類があることが解説されました。

その上で、「誰が評価の枠組みを作るのか(博物館が主体的に関わるか否か)」「誰が実際に評価するか(博物館の利用者か否か)」がきわめて重要な意味を持つことが強調され、この2軸による4象限のうちどこに位置するかで様々な評価を分類できることが示されました。このように、一口に評価といっても実に多様な種類があり、それぞれ役割が異なることがわかりました。

解説の過程で、先生ご自身の授業についての授業評価のデータや、雑誌による全国の動物園のランキング記事などの生々しい評価の実例が紹介され、個々の評価のメリットと問題点が具体的に指摘されました。

さらに、「観察法」「質問紙法(アンケート)」「面接法」という三つの代表的な評価手法の解説に関連して、北大総合博物館の科学技術展示のリニューアルや、東京都内の美術館における広報のあり方に関する興味深い評価事例が紹介されました。

観察法による展示室の行動パターン調査のデータは大変説得力のあるものであり、リニューアルにおける意思決定に大きな役割を果たしたそうです。また、広報効果の経時変化が媒体によって劇的に異なるという調査結果は、その後の企画展広報戦略を立てる上で大変貴重なデータになりました。また、「来館者が美術館に対して抱いているイメージ」に関する調査結果も、施設のブランド・マーケティング戦略を立てる上で有益な手がかりとなったことでしょう。

今回の講義を通じて、今後受講生が自分たちの科学技術コミュニケーション実践の計画、実施、評価、改善というサイクルを回していく上での、数多くのヒントが得られたのではないでしょうか。