7月28日(水)の講義では、東京大学大学院情報学環の山内祐平准教授を迎えて、「学習環境のデザインに向けて」というテーマのもと、2つの学習環境をご紹介いただきました。一つ目は東大駒場キャンパスにある「駒場アクティブラーニングスタジオ(KALS:カルス)」、二つ目は同じく東大の「福武ホール」です。
現在、私たちが使用する大学の講義室は、100年前のものと比べても机や椅子の配置などの点であまり変化がありません。これに対して、全く新しい学習環境として注目が高まっているのが、「アクティブラーニングスラジオ」と呼ばれる講義室です。東大駒場キャンパスの「KALS」は山内さんがデザインされています。
このKALSには、いくつかの特長があります。例えば、豊富なビジュアルソースを映し出すスクリーンや、「パーソナルレスポンスシステム」と呼ばれる学生の理解度を測る設備。また、グループの人数によって組み合わせを変えられる「勾玉テーブル」など、受け身ではなく能動的な学びを促す仕掛けがKALSにはあります。学習者が教室に合わせるのではなく、教室が学習者に合わせられるデザインなのだと、新鮮に感じられました。
こうしたアクティブラーニングスタジオがどの程度効果的なのかの調査が、その先駆けである米国マサチューセッツ工科大学(MIT)のTechnology Enabled Active Learning(TEAL)で行われているそうです。通常の教室での講義は成績の上位者、下位者ともにわずかに成績が上がるのみでしたが、TEALを使用した講義では成績上位者はさらによい点数を取るという調査結果が出たとのことです。
ここまでの講義を踏まえて質疑応答が行われ、アクティブラーニングスタジオの費用対効果や教員側の負担について、受講生より活発な質問が出ました。山内さんからは、「事前準備の負担などから、積極的に使用する教員はまだ少ない。しかし、教員全体のうち10%を目標に徐々に使用者を増やしていきたい」との回答をいただきました。
山内さんが紹介した二つ目の事例は、同じく東大にある「福武ホール」です。このホールの特色の一つに「学環コモンズ」といわれるコミュニケーションスペースがあります。こちらは、大学図書館の共同利用室からヒントを得たアイデアで、学生同士の意見交換やプロジェクトのミーティングを進めるのに便利なようにテーブルやソファ、簡易な壁でいくつもの空間に区切られています。こちらはなんと、365日24時間使用できるそうです。
また、こちらのホールに併設されたカフェ「ベルト・ルージュ」では、毎月「UTalk」といわれるイベントが開催されています。こちらは山内さん率いる教員チームがホストを務める対話型のイベントです。ゲストである研究者を囲んで、学生や一般市民最大18名の参加者がカフェに集まって対話します。こちらはツイッターなどインターネットが主な告知媒体ですが、毎回抽選になるほどの人気だそうです。
最後に個人的な感想ですが、山内先生の講義に出席して浮かんだのが、「環境が変われば、行動も変わる」ということです。私自身も勉強に集中できないときなどは場所を自室からスターバックスや図書館に移すことがあります。環境を変えることで頭のスイッチが切り替わり、より集中ができるように感じます。
「KALS」は従来型の教室とは学習環境がまったく異なります。例えば、机の形が長方形ではなく勾玉形であったり、教員が教壇ではなく講義室の中を歩き回っていたりなど、これまでのスタイルとは違う環境で勉強することで、学習者のモチベーションや理解が今後変わってくるのではないかと感じました。まだ積極的に使用する教員は少ないようですが、今後の教室の形として同じような場所が増えてくるのではないでしょうか。
今回の講義を受講して、未来の学習環境に対するヒントをいただきました。山内さん、素晴らしい講義をありがとうございました。
レポート:高橋里英子(本科生)