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「日本型サイエンスコミュニケーション来し方行く末」(6/19)渡辺政隆先生 講義レポート

2021.7.20

池上日菜(2021年 選科/社会人)

はじめに

モジュール1の第1回では、同志社大学特別客員教授・東北大学特任教授である渡辺政隆先生より、サイエンスコミュニケーションの来歴とこれから求められる姿に関してお話を頂きました。

渡辺先生は文部科学省 科学技術政策研究所に勤められていた経験があり、その際にサイエンスコミュニケーションに関する調査や提言を多数されていました。そこで今回は、渡辺先生が実際に作成された調査資料を基に講義いただきました。

「科学離れ」の懸念から提唱された「サイエンスコミュニケーション活性化方策」

渡辺先生は2002年より文部科学省 科学技術政策研究所に所属され、2003年に「科学技術理解増進と科学コミュニケーションの活性化について」という調査資料を作成されます。当資料には、サイエンスコミュニケーションに関わる統計データや、イギリス/アメリカのサイエンスコミュニケーションの事例および日本が諸外国に追いつくべき事項などが記載されていました。

なぜサイエンスコミュニケーションの推進に関する調査資料が必要だったのか。それは、当時政府の中で「科学離れ」「理科離れ」が非常に大きな懸念だったからです。そのキッカケは、2001~2002年に実施された、科学技術概念基礎概念の理解度に関する調査です。その結果、日本の科学技術に関する理解度はイギリスやアメリカを始めとした諸外国を下回っており、科学リテラシーが低いということが判明しました。

政府はこの原因を、国民の科学に対する不信感に基づく「科学離れ」が原因と考え、打開する為の施策に関して検討をしました。その一環として、渡辺先生はサイエンスコミュニケーションに関して調査され、その活性化施策を提言されました。

実際に渡辺先生が提言された「サイエンスコミュニケーション活性化方策」の構想は、下記の図のようにまとめられていました。。大きな特徴は、多様なセクターにサイエンスコミュニケーションの素養を身に着けてもらうという思想です。具体的には、大学教育のカリキュラムにサイエンスコミュニケーションを取り入れることで、多様なセクターにサイエンスコミュニケーションの素養を持った人材を輩出するというものです。メディア・企業・政府といった多種多様なセクターにサイエンスコミュニケーションを還元するという画期的な構想でした。

そして、実際にこの構想が第3期科学技術基本計画に反映されることとなりました。具体的には、大学や博物館でのサイエンスコミュニケーター養成講座が開設されるようになりました。

行政におけるコミュニケーション不全

先程の「サイエンスコミュニケーション活性化施策」により、2006~2010年にかけて多様なサイエンスコミュニケーションの活動が普及します。例を挙げると、サイエンスカフェ、研究広報、市民科学の普及などが挙げられます。サイエンスコミュニケーションの代表的な活動・職種が普及することで、その素養を持つ人材が多数輩出されることとなりました。

一方、この施策の根幹にあった、多様なセクターへのサイエンスコミュニケーション普及は一部課題が生じることとなってしまいます。そのキッカケは東日本大震災です。東日本大震災と福島第一原発事故の一連において、政府は「科学のブラックボックス化」を行うこととなりました。具体的には、政策決定の不透明性や、事故に関する情報の非開示が挙げられます。また、その理由も、「国民の混乱を避けるため」といった、いわゆる「欠如モデル」に基づくものでした。

また、昨今の新型コロナウイルス感染症における政府の対応も、先に挙げた内容と概ね同様の状態です。今後、そうしたサイエンスコミュニケーションが普及していないセクターに対しても継続的に働きかけを行うことが求められています。

科学コミュニケーションの行く末~求められる2つの役割とその課題~

ここまで、サイエンスコミュニケーションの来歴、「来し方」についてお話がありましたが、最後には「行く末」に関しても講義いただきました。渡辺先生曰く、サイエンスコミュニケーションには2つの役割が求められるそうです。

まず、1点目は「科学リテラシーの照らし合わせ」です。これは、専門家、非専門家で科学リテラシーやその捉え方といった「前提」が違うことを理解し、それぞれの差異を理解した上でコミュニケーションを行うことが求められていることです。通常、異なる立場の当事者同士では相手の立場を理解することは困難です。そのため、双方の差異の「照らし合わせ」を行うことがサイエンスコミュニケーターの役割であると言えます。

次に2点目は「異なる文化の対話をとりもつ」というものです。具体的には、多様な知(人文科学・社会科学・自然科学)を理解し、相互の対話を促すことで新たな「叡知」を生み出すことが挙げられます。通常、専門家は自身の研究分野を深め、その分野ならではの視点で物事を考え発想します。サイエンスコミュニケーションはこの個々の視点の差異を理解し、コラボレーションを促すことで、新たな発想の創出を支援することが求められているのです。

最後に

本講義を通し、「多様なセクターにサイエンスコミュニケーションを普及させること」の難しさを改めて感じました。なぜなら、現在の新型コロナウイルス感染症対策においても、政府の意思決定にサイエンスコミュニケーションが普及している状態とは言えないからです。それと同時に、新型コロナウイルス感染症対策が継続している現状こそ、「科学リテラシーの照らし合わせ」を始めとしたサイエンスコミュニケーターの役割が強く求められていると言えます。サイエンスコミュニケーターを目指す私自身、この役割を実現できるよう学びを深めていこうと考えました。渡辺先生、ありがとうございました。