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「地域にある最先端で、北海道の新しい価値を生み出す」(1/29)成田智哉先生 講義レポート

2022.2.14

山之内海映(2021年度 本科/学生)

 

今年度最後の外部講師は、マドラー株式会社の成田智哉(なりた・ともや)先生です。成田先生は「自分にしかできないことは何か?」と問い続け、境界を越えて世界をかき混ぜる「マドラー」としての役割という答えを見つけたといいます。今回の講義では、それまでの道のりや、現在注力している地域への想いについてお話しいただきました。

(成田智哉先生。現在は厚真町でマドラー株式会社を設立し、「Mobility meets Community」や「ほっとけないどう」、「えぞ財団」などの企画運営などもされています。人を巻き込むためには想いを伝え続けることが大切と語る通り、お話の中でも地方や北海道に対する熱い想いが伝わってきました)
ひたすら自分の世界を広げ続けた20代

高校時代まで北海道千歳市で過ごし、広い世界への憧れから大学入学を機に上京した成田先生。その想いは大学生活でも変わることなく、西洋史の勉強に励む傍ら、さまざまなアルバイトにも積極的に取り組んだといいます。

卒業後、選んだ就職先はトヨタ自動車株式会社。世界平和を実現するためには外交官といった国の代表ではなく、民間企業の方がグローバルに活動できるという考えがあったといいます。入社後は人事として、バックグラウンドや考え方、目標も異なる多様な人々をトヨタという同じ船に乗る人としてまとめ、繋げていくという活動をしていたそうです。

世界を広げ続けたことで気づいた「マドラー」という自分の役割

転機が訪れたのはブラジル駐在中の30歳の誕生日。「自分から会社をとったら何が残るのだろう?」とふと考えた瞬間があり、すぐに日本に電話して退職。肩書を全て捨て、30代がスタートしました。

フィルターバブルという言葉を聞いたことはあるでしょうか。本来はもっとカラフルなのに、もっとたくさんのものがあるのに、人は無意識に自分の見たいものや見たい色だけを見てしまうと言われています。「世界にはまだまだ知らないことがたくさんある」。こう思った成田先生は、この自分フィルターをなくそうと、半年間とにかくたくさんの人に会い続けました。

これまで田舎で生まれ、都会にも住み、大企業も見てきて、数えきれないほどの人に会ってきたーー 世界を広げ続けてきたことこそが自分の強みであり、「自分にできることは何なのか?」という問いの答えにつながると、あるとき気が付いたそうです。いろいろな人がいるこの世界を、マドラーのようにかき混ぜることこそが自分だからできることだと。そうして立ち上げたのが、現在経営しているマドラー株式会社でした。偶然誘われて行った先での、地域にこそ最先端があるという気づきから、北海道厚真町を拠点とし、レガシー×テクノロジー都会×地方ベテラン×ワカモンというような両極端をかき混ぜる活動をされています。

(年間300日以上人と飲んでいたこともあったというくらい、とにかくたくさんの人に会い続け、そのおかげでたくさんのことに気づくことができたといいます)
解像度の高さと多様性が田舎の強み

田舎にはさまざまな課題があります。例えばモビリティの課題。現在の技術を駆使すれば最新の自動運転やアプリを導入することは可能です。しかし、それだけでは解決になりません。「あのおばあちゃんはそれを使いこなせるのか?」「移動中の何でもないおしゃべりこそがあの人にとって価値のあるものではないか?」と、相手の顔が見える田舎だからこそわかることがあります。地域の未来に必要なのは、高度なテクノロジーだけでなく温もりあるコミュニティであり、近所の人を家族のように助け合える関係こそが課題の解決に必要なものだと成田先生は強く感じているそうです。そこで、地域の中で20代のドライバーと90歳のマッチングをし、移動手段だけでなく人とのつながりを生み出すことでモビリティ課題を解決しようとしています。

このように誰がどんな課題を抱えているのかということを解像度高く知ることができることや、日々いろいろな人と繋がることのできる多様性こそが田舎の最大の武器であり、価値なのだとおっしゃっていたことが印象的でした。

(町のコミュニティスペースIchikaraは、メンバーで一からDIYをして完成させたそうです。コミュニティスペースは最強なんだ!」という成田先生は、昔の長屋家族のように、家族のようなコミュニティ「厚真家」になることを目指しています)
多様な人を巻き込む力

成田先生は厚真町だけでなく北海道全体も盛り上げるための活動も始めています。北海道で挑戦したい人と応援したい人をつなぐ「ほっとけないどう」プロジェクトや北海道の新しい経済コミュニティ「えぞ財団」を立ち上げ、地元住民・行政・クリエイター・アーティスト・大企業・学生まで本当にたくさんの人を巻き込みながら活動をしていらっしゃいます。

私はこれまでの経験から、多様な人を巻き込むことの難しさを強く感じており、お話を聞いて成田先生の巻き込み力の強さに衝撃を受けました。しかし、それはこれまで数えきれない人と会ってきたからこそ身に付いた力なのだと思います。私も初めから大きなことをしようと気負いすぎず、まずは「とにかく想いを伝え続ける、巻き込めそうな人から少しずつ巻き込んでいく」という先生のヒントを実践してみようと思います。今後、私たちが科学技術コミュニケーターとして活躍する時にも、日頃からの「人とのつながり」を大切にしていきたいですね。

講義を通して改めて考える 〜自分にしかできないことは何なのか?〜

CoSTEPでの約1年間の学びを通して、科学技術コミュニケーションはひとりの力で全てを動かしていける分野ではないということを強く実感し、いろいろな人がいろいろな角度からアプローチすることが必要だと感じています。これまでの講義でもそれぞれの方法で実践活動をされている方々のお話を聞いてきました。そして修了を目前にした今、私は「自分はどんな角度でアプローチするのか?」「自分にしかできないことは何なのか?」という問いに直面しています。同じ思いをもった受講生の皆さんも多いかもしれません。このタイミングで、その問いと向き合い、答えを見つけてご活躍されている成田先生のお話を聞き、改めて考えるきっかけとなりました。

成田先生ありがとうございました。