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モジュール2-5「インフォグラフィックスについて」(7/30)チャンソンファン先生 講義レポート

2023.2.14

執筆者:竹内 希(2022年度選科B/社会人)

(1)誰もが受け取りやすい情報を
   ーインフォグラフィックスを用いたビジュアルストーリーテリングー
「インフォグラフィックス」という言葉を今初めて目にしたという方も多いのではないでしょうか。それもそのはず、なんでもまだ西暦2000年を過ぎた頃から使われ始めたばかりの言葉だそうです。そんな比較的歴史の浅い概念ですが、近年では、ビジュアルコミュニケーションの一手法として関心が高まっています。
今回は、韓国でインフォグラフィックス専門のデザイン事務所である203infographic研究所を主宰し、インフォグラフィックス作品で、デザインに関する多くの国際的な賞を受賞されているチャン・ソンファン先生にインフォグラフィックスについて教えていただきました。
チャン先生はインフォグラフィックスを「事前知識のない相手に、情報を簡単かつ楽しく理解させ、さらに行動につなげることができる手法」と定義します。講義で話されたインフォグラフィックスの特徴や制作方法を見ていきましょう。

(写真左)チャン・ソンファン先生(203infographic 研究所代表/国⺠⼤学テクノデザイン⼤学院兼任教授/⽉刊『ストリートH』発⾏⼈)。韓国の美術大学である弘益大学を卒業後、雑誌制作会社や通信社を経て、1995年に科学雑誌『科学東亜』のアートディレクターに就任したことを機にインフォグラフィックスに携わるように。2003年に独立し、デザインスタジオ203を設立。2012年には203infographic研究所を立ち上げ、現在まで多くのインフォグラフィックス作品を世に送り出してきています。
(写真右)CoSTEPスタッフの朴炫貞先生。約2時間半に及ぶ講義を、韓国語から日本語へ同時通訳してくださいました。ありがとうございました!
チャン先生によるインフォグラフィックスの事例

(2)インフォグラフィックスとは?
インフォグラフィックスの特徴は大きく二つあります。まず、文字情報(テキスト)への依存度を最小限にし、視覚的にうったえる工夫をしていることです。このため、言語や国籍、文化の違いを超えて様々な人にわかりやすく情報を伝えることに適しているとされています。

右はある恐竜に関するインフォグラフィックス作品。言葉で説明されなくても、恐竜が成人の膝上くらいの背丈であることや、身近な動物である猫と比較したサイズ感などが一目で理解できます。一方左側は、説明がないと理解しにくいものです。

また、インフォグラフィックスには以下の利点があると考えられています。
インフォグラフィックスの利点
・興味をそそる(文字のみで構成される情報よりも、視覚的魅力を持ち見る人の興味を引き付ける情報を作ることができる。)
・わかりやすい情報伝達(難しい内容について、わかりやすくして理解を促す。)
・長く記憶に留まる(文字のみで構成される情報に比べ、長期間記憶が維持される。)
・自発的に拡散される(画像情報のため、見た人がSNS等で発信することで自発的に拡散していく。)

インフォグラフィックスは優れたコミュニケーションツールということがわかります。ぜひ取り組んでみたい手法だと思いました。

(3)大公開!インフォグラフィックス制作のポイント
インフォグラフィックスを制作するにはどのようにしたらよいのでしょうか?チャン先生の主宰する203infographic研究所で実際に用いられている制作方法をご紹介いただきました。

203infographic研究所での制作プロセスのイメージ図。3段階の工程それぞれに3職種が混在しているのが特徴。一般的に、デザイン関係の制作プロセスは、データ専門家→ライター&エディター→グラフィック&デザイナーと職能ごと切り離されたものとなりがちですが、「それぞれが自分の作業のみに関わるのではなく、制作プロセスの各段階で密に連携し共同作業をすることでより良いものが生まれる」というチャン先生の考えから、このような体制が構築されたそうです。

Point1 3段階の制作プロセス、合言葉はDesignNext
203infographic研究所では次のプロセスでインフォグラフィックスが制作されています。
Step1 Mind mapを作成する
資料の調査や、集めた情報を分類する作業。
Step2 Narrative Diagramsを作成する
203infographic研究所で独自に開発されたプロセス。Step1で分析した情報を構図化し、理解を促すためのストーリー(流れ)を構築する作業。
Step3 Design
具体的なビジュアルコンセプトを定め、色・形などの造形を進めて作り込んでいく作業。

チャン先生によれば「情報を分析し、何をどう伝えるのかというプランをはっきりさせてからデザインに入る」というスタンスを“DesignNext”と呼ぶそうです。奇抜なデザインをてらうよりも、対象となる情報の成り立ちを分析することや、それをわかりやすく伝えるためにどのような構図を組むかという点を優先させることで、多くの人にとって理解しやすいインフォグラフィックスを作り出されているようです。

Point2 Mind map作成の心得
最初のプロセスであるマインドマップ作成のコツをうかがいました。以下の3ステップで進めると良いそうです。
①発散的に多くの情報を収集する。
②集めた情報を分類、整理する。
③情報の関係性をとらえ、要約する。実際に使用する情報の内容と量を取捨選択する。

Point3 ここがミソ!Narrative Diagrams
マインドマップから直ぐに具体的・詳細なデザインに進んでしまうと、クライアントと制作サイドでディスコミュニケーションがしばしば起こるそうです。そこで203infographic研究所で独自に開発し用いるようになったのがこのナラティブダイアグラムというプロセスで、以下のような目的・特徴・利点を持ちます。
①目的
・実際の紙面サイズで作成し、入る情報量をつかむ
・マインドマップの時点では文字情報だったものを構図として落とし込む
・おおまかなレイアウトを捉える
②特徴
・簡単な図形で構成されている
・無彩色
③利点
・デザイナーが技巧にとらわれずにまず大まかな全体像を作ることができる
・無彩色とすることで、この段階におけるデザイナー個人の好みの影響を排除できる
・デザイナーがまだ作り込んでいない段階なので、クライアントから修正依頼があっても修正が容易で感情的ストレスも少ない
・文字よりもビジュアル表現に親和性の高いタイプの人たちと、ビジュアルより文字情報に親和性の高いタイプの人たちが効率的に意見交換できるコミュニケーションツールとなる
・情報の構図化の段階で、様々な立場の人から意見をもらい、より良いアウトプットにつなげることができる

Point4 良いインフォグラフィックスの3要素
良いインフォグラフィックスの条件は①有益な情報であること②それをわかりやすく伝達していること、そして何より、③魅力があること、とチャン先生は考えています。

インフォグラフィックスの要素

(4)受講を終えて
講義中、チャン先生からこんなコメントがありました。「(対象について)全ての内容を理解しないとインフォグラフィックスは作れないのが特徴です。私も制作時は勉強をし、全て理解した上で作り上げました。今となっては全部忘れてしまいましたが…。」この言葉を聞き私は、「どうやらインフォグラフィックスは相当な知力と表現力を動員する必要のある手法らしい」と少々面食らいました。
なぜこんな大変そうなことにチャン先生は取り組み続けているのでしょうか。
先生は大学修士課程に在学中、大学の新聞社に所属していました。「これが人生を大きく変える出来事だった」と振り返ります。ここでデザインよりも企画と取材を2年間ガッチリと経験したことがチャン先生にとって大きなバックグラウンドとなっているそうです。
また、聯合通信社に在籍時、グラフィックニュースチームに所属し海外の通信社の仲間と共に制作に取り組まれたそうで、この経験もインフォグラフィックスに取り組む土壌となっているかもしれないとおっしゃっていました。
チャン先生はインフォグラフィックスについて、「事前知識のない相手に、情報を簡単かつ楽しく理解させ、さらに行動につなげることができる手法」と定義されていますが、この捉え方にも制作への原動力が込められているのかもしれません。
とても手間がかかる、けれど、ぜひ世界中の様々なシーンで活用されていって欲しい手法だと思いました。私もトライしてみます。少しずつ…。