Articles

モジュール2-3 「映像メディアによる科学技術コミュニケーション」(7/22)早岡英介先生講義レポート

2023.8.10

須田真通(2023年度選科A/社会人)

普段、何気なく見ている映像メディアですが、その製作プロセスや考え方には私自身これまであまり触れたことがありませんでした。早岡 英介 先生(北海道大学CoSTEP客員教授/ 羽衣国際大学教授)のご講義から、具体的な製作プロセスと併せて科学技術コミュニケーションにとって映像メディアがどのように活かせるか、またどのような点に注意すべきかを学べる良い機会となりました。

映像メディアの特性とAIによる影響

記者が作る記事は原則事実の記録であるのに対して、映像メディアには受け手の心理を考えて「物語」を作ることが求められ、その中でもディレクターは物語を作るプロとして、数名のチームをまとめて映像を製作していきます。

(自身の経験を交えディレクターと記者の違いについて説明する早岡先生)

映像によるコミュニケーションの特性として
・感情が伝わりやすい
・非言語情報によるコミュニケーション
・感情の共有による親しみ
の3つを挙げられました。活字は事実関係が詳細に記録され参照されやすいといった特徴がありますが、映像メディアでは子供でも外国人でも誰でも一瞬で理解できるという特性があります。「活字に比べて画像は一発で伝わる」という言葉通り、地球の水の全量を示したスライドはとても分かりやすく水がいかに貴重か伝わります。(参考U.S. Geological Survey :https://www.usgs.gov/media/images/all-earths-water-a-single-sphere)

(早岡先生が事例としてあげた「鈴木ー宮浦クロスカップリング」の映像)

「興味のきっかけ」となりやすい映像メディアはサイエンスコミュニケーションにも応用ができます。難解な触媒反応のメカニズムをカニの両手(ハサミ)のイメージに置き換えることや、おせっかいなおばちゃんに例えて紹介する(シンボル化する)ことで、文字情報だけでは理解しにくいことでも比喩表現を考えることで伝わりやすくすることができます。

また映像の分野ではAIを用いた技術が進展しています。インタビューの書き起こしや翻訳、背景画像の合成などで既に活用されていますが、テキストを入力するだけで画像やイラストを生成することも可能になっており、Adobe社の「Firefly」(生成したイラストの著作権問題もクリア)や、Open AI社の「Shap-E」などのプロダクトが生まれてきています。また、言語系よりも映像は難易度が高く実現はしていない状況であり、それは時間軸があり相互関係や連続性の変化率があるためとのことです。
近い将来は企画書のタイトルやキャッチフレーズ作り、映像では30秒でのCM作りなど条件設定が明確な場合にAIが応用されると予想されています。
また、これからの時代の情報収集の手段としてAI検索を活用する場合には出来るだけ公的情報源(政府や大学など)をAND検索することや英語や現地語で検索することで情報の精度が上がることが挙げられていました。(Microsoft社のBingでは出典が明示されるといった点も参考にするとよいとのことでした)
またAI検索に載らない(ネットにない)情報、例えば図書館や古本などのアナログ情報や自分しか知らない一次情報に価値がある時代になっていくとも予想されていました。

(映像分野での生成AIについて説明する早岡先生)
映像製作のプロセス

全体のプロセスとして以下をご説明頂きました。
・企画(事前取材)
・構成(取材)
・撮影(写真、画像、空撮など素材収集)
・編集(カットを並べる、トランジション、デザイン、ビデオエフェクト
テロップ、音響効果)
・台本・テロップ原稿作成
・ナレーション収録

【企画】
まず、時代背景やオリジナリティ、魅力がどこか、それをどのように伝える(ストーリ化する)か、という視点をふまえて企画は「A4用紙1枚」でまとめられる、ということです。その後、企画段階から実際に番組にしていく段階では「では、その中でどこにフォーカスするか」といった視点に変わっていくそうです。
実際に早岡先生が製作に携わった映像作品のオープニングを鑑賞しましたが、イントロ前に流れるストーリーのことを「コールド・オープニング」または「アバンタイトル」と言い、どのような作品か、視聴者に興味をもってもらうための作品のエッセンスが詰まっている部分とのことです。

【構成】
どのようなシーンが必要か、またそれらをふまえて全体のストーリーを作っていくことです。撮影などはチーム(カメラマン、音声、プロデューサー、クライアントなど)で行うため、何を撮影すべきか明確にすることが大事です。それをチームで共有して撮影を進めていきます。実際にはストーリー順で撮影するのではなく別に撮影順を示した「香盤表」というものを作成することもあるそうです。

【撮影】
ドローンを用いた空撮や水中撮影なども含めて、対象物にあわせて魅力的に表現することが必要です。その際、漫画家のさいとうたかお先生の「ゴルゴ13」に出てくるワンシーンを例に、「構図」について説明頂きました。70%の「引き」の映像ではどのような状況かが一目で分かると同時に、30%の「現場」映像では実際何が起こっているか、が分かる、といったことから、7:3のバランスについて説明頂きました。

【編集】
編集作業ではパズルのように画像や映像、音声やテロップを組み合わせてソフト上で作業をしていきます。
編集では視聴者の「繊細な感情の動き」を想像しながら作ることが大事とのことです。また、そもそも映像が美しいか、興味深いかどうかも重要な要素だということです。和歌山の森の中を進むモノレールでの撮影のお話では、地表すれすれの高さに設置したカメラでの映像にナレーションが組み合わさって素敵な映像だと感じました。
また、対立構造のストーリーを作ることで視聴者の興味を引くという手法についても例示されていました。

【台本・テロップ原稿作成】
セリフやテロップなどは、一度作成したものを相手に確認することで、自分では気づいていなかったことなど示唆があるとのことです。Google Documentなどで共有しながら指摘を受けると良いとのことでした。
またタイトルで作品の印象が決まるので、タイトルづくりにはこだわって欲しいとのことでした。

【ナレーション収録】
ナレーションにはリズムや間が大事ですが、それはナレーションを聞いてから視聴者が考える時間が必要だからです。ナレーションやBGMなど含めて総合的な音声情報となるので、詰め込み過ぎないことと相手が考える間(時間)を想像することが大事です。
プロや慣れた人がナレーションを担当するメリットはありますが、素人がナレーションをすることで良い時もあるとのことでした。

具体的に企画してみる

企画を考える時にはミッションを明確にすることが大事で、実際に映像メディアの企画を通じて教えて頂きました。研究者になる人が少なくなっている、という問題を事例として、どこに課題があるか、それをどう伝えるか、ということを整理する事や、様々な演出の累類からストーリーや伝えたいことをふまえてどういう演出が適しているかを選定することなど、具体的な実例を通じて教えて頂きました。特に近年ではVRやARを用いた映像作品も増えているとのことです。
「バーチャルキャラが北大・知のフィールドに潜入!」という先生が考えられた仮企画案は、SONY社の「mocopi」というモーションキャプチャ技術+Vroidを使ったVRキャラとリスキーというイラストキャラがリアルの人物と一緒に北大をナビするというもので、時代背景やオリジナリティ、魅力や構成などを押さえて企画をするということを具体的にイメージしやすかったです。

最後に

映像メディアの分かりやすさ、興味のきっかけとなれる力について学ぶと共に、それを活かすためには企画や撮影、編集などそれぞれのプロセスを理解しておくことが必要だということを学びました。私自身、これから見る映像メディアについてこれまでと違う視点が持てたと思います。また、視聴者の感情や間など相手について考えることは、コミュニケーションとして大事だと改めて感じました。
最後に早岡先生がおっしゃっていたように、企画も大事だがそれにこだわり過ぎず、まずは手を動かしてやってみる、ということも重要だと思います。貴重な講義を頂きありがとうございました。

(講義後に早岡先生を囲んで記念撮影。早岡先生ありがとうございました)