Articles

選科A活動報告「本当は知りたい3つの言葉」 

2023.9.12

PRESENTED BY ナットウ星の光
メンバー:タケ,マレ,コウタロウ,マサコ,モモ,ニケ

このイベントを立てた目的・ねらい

「本当は知りたい3つの言葉」では,発表者と視聴者の間で3つの言葉について考えながら様々な立場にいる人によって同じ言葉でも感じ方,考え方に多様な違いがあることを考えるきっかけになればと思い,企画しました。今回選んだ言葉は「面白い」「科学」「コミュニケーション」でした。3つの単語がもつ意味をじっくりとみんなで共有したあと,「面白い科学コミュニケーション」とは何かという1つの大きな問いへとつなげることでより深くその問いについて考えを深めることを目的としました。

イベントの裏側

イベントを行う上で必要であった,3つの言葉を選んだ理由,スライド作成,チラシ作り,セリフ作成を担ってくれた方々の裏側の思いを紹介します。

宇宙人の彼がなぜあの言葉を不思議に思っていたのか(タケさん)

(1)「『おもしろい』の類義語は?」

「おもしろい」とはどういうことかということは、互いに共有したらいいと思っていた。というのも「科学のおもしろさを伝える」ということが、科学技術コミュニケーションの文脈で、よく出てくるからである。加えて「おもしろい」は、日常会話でもよく使う形容詞であるが、実際にどんなことであるかを改めて考えると、各人の差が出やすい言葉であるとも思われた。

(2)「科学は『   』だ」

「科学」とは何か、つまり科学の定義については、学問的にも決着がついておらず、場合によってはそれが争いにもつながるように思われる。そこで、この点をどう考えているかは、様々な立場をもつ視聴者の考えをぜひ聞いてみたかった。

(3)「『    』もコミュニケーション」

最後に、どんなものやどんな事柄が、コミュニケーションとなりうるかについても様々な立場をもつ視聴者の考えをぜひ聞いてみたかった。なぜなら、それが「科学技術コミュニケーション」を実践する上での、発想を柔軟にすると思われるからである。

スライド作成(マレさん/コウタロウさん)

今回のイベントでは会話劇の中で宇宙人が使う言葉の意味を辞書で調べ、スライドで表示した。これには宇宙人の彼は辞書を作るため地球へ言葉を探しに来ており、辞書で知った通りの言葉しか知らない宇宙人の脳内を補足する狙いがあった。会話のおおまかな流れは決まっていたものの即興劇だったため、繰り返し劇の練習する中で出てくる単語を拾い、辞書で調べてスライド化した。辞書スライドは40枚程度あったが、実際利用できたのはごく一部だった……。今回は視聴者も参加できる双方向的なイベントを目指しMentimeterというサービスを利用したスライドを作製した。視聴者に呼びかけた質問の答えをリアルタイムに可視化し、それに対して演者が反応していく形式だった。今回用いたスライドは学会発表やサイエンスカフェなどのものと作り方がかなり異なっていたため,難しかった。朴先生の質問を穴埋め形式にし、空白部分の大きさを変えることで答えの長さをコントロールできるというアドバイスを受け、視聴者からの答えを単語や短めの言葉で引き出すことができ、効果的なワードクラウドを作ることができたと思う。

チラシづくり(マサさん)

言葉の多面性を表現したく、多面体をモチーフにデザインの構成に取りかかりました。プログラムの中で宇宙人が登場するため、多面体を星に見立てた宇宙空間をイメージとしました。背景は、言葉は白黒で分けられず、使う人の背景に応じて捉え方が変化することがあると考え白、黒、グレーの3色の配色としました。今回3つの単語が中心となることから、サイズの大きい3つの多面体を複数の背景色に配置しました。必然性を問いながら受け手の想像力に委ねるデザインを目標に試行錯誤しながら作成しました。

セリフ作成(ニケ)

セリフを考えていく上では劇中の流れを意識した。今回のイベントでメインである3つの言葉の「面白い」,「科学」,「コミュニケーション」を宇宙人が聞いてくる流れはどうすれば自然なものとなるのかについて考えるのが特にとても難しく感じた。そこで朴先生やナットウ星の光メンバーと意見を出し合うことで自然なセリフを作成することができたように思う。

大変だったこと

今回のイベントを企画し,実行する中でもっとも大変だったことはメンバーの意見や考えを集約し、話し合いの中でイベント全体の方向性を踏まえたテーマや実践方法を導き出す点です。これらを決めるまでに非常に時間がかかってしまいました。キーワード:ネットワークに対し、一番に浮かんでくる言葉として「人と人とのネットワーク」をメンバー全員がイメージしているものの、メンバーそれぞれの考える「人と人」、「ネットワーク」のありよう(価値観)が、多岐にわたっていたからです。この多様な意見がベースとなり、テーマ:「心地良いネットワークを作るための言葉集め」に行き着きました。

(最初の企画プレゼンの様子)

(たくさんの方から頂いたコメントを確認している様子)

しかし,この当初案に対しては、他班から「差別を可視化するとかえってしんどいかなと思いました」「サイエンスコミュニケーションの要素はどこ?」などのコメントを頂きました。これを受けて、現実に見えない差別を受け傷ついている人が我々の発表によってさらに傷つくことがないように企画を設計する必要があるという話になり,さらに練り直すことになりました。そこで人を傷つけないような設定を考える必要があり、「宇宙人」という架空の設定を作成しました。しかし,今度は上述のテーマを扱いながら、視聴者を巻き込むような企画の設計、ストーリーが作れないという壁にぶつかりました。その原因としては「ゆるいネットワークがいい」という価値観が先行し、視聴者に価値を押しつけているために、設計がうまくいかないのでないかということが議論の中で考えられました。したがって、価値観を先行させることなく、価値観自体について視聴者と対話するような形式をもった企画を、改めて作り直す必要がありました。このように何度も案を出しては練り直し、、、という作業を限られた時間の中で繰り返し行うことが最も大変でした。

目標に対する結果

今回のイベントの結果に対して私たちが良かったと思う点と改善点を紹介します。

まず,良かった点はMentimeterを用いて視聴者参加型かつ視覚的にも見やすいイベントにできたことです。私たちのイベントの目的である様々な立場によって言葉の持つ意味が違うということを視聴者の方が出してくださった多くの意見を示すことが出来ました。アンケート結果でも「同じことでも他人との考え方、理解のしかたに違いがあることを感じた」と回答していただいた方は85%以上であり、イベントに参加されたほとんどの方に対してこれを伝えることができたと考えています。

次に改善点ですがこれは「面白い科学コミュニケーションとは何か」という大きな問いについてあまり深く掘り下げることが出来なかったことです。3つの言葉に対して考えを共有した後,この大きな問いに対して考える時間を設けたため,この問いを考えるきっかけや難しさを感じてもらうことはできたように感じましたが,最後にきちんとまとめることは出来なかったことに少し後悔が残ります。

得られたこと

私たちがこのイベントの企画,運営を通して得られたことはたくさんあります。まずは,「自分(たち)にしかできないことに,こだわる」という示唆を得られたことです。こちらは朴先生から頂いたアドバイスになります。つまり,表現のオリジナリティを追求することが大事ということです。オリジナリティのない表現は、結局のところ、相手の心に残らないのでないかということ,これは非常に大切な考え方であり,今後のイベント企画にも反映していきたいと思います。次に一つのテーマでもいろいろな切り口、手法あり,その最適解を見つけるにはたくさん試してみるしかないという気づきです。今回はこのようなイベントを企画しましたが,そのなかでも評価点と改善点がありました。これは今回のイベントにより得られた財産です。これらを大切にしながら次につなげていくことで常にレベルアップしたイベントを企画したいと強く思います。最後は1つのイベントを作り上げた経験です。限られた時間でコンセプトを定め、どのような流れにすれば伝えることが出来るかを逐一考え,反映させていくという貴重な経験を得ることができたことです。上記でも述べましたようにイベントを通して最も伝えたいことやメンバーの思いから外れないようなイベントを企画し,最終案に持ち込むのはとても大変でした。しかし,その案を他のメンバーや先生方から様々なフィードバックを頂いて反映させていくことで,より参加者が楽しめる方法,よりよい伝え方について模索することができたため,この経験は非常に大切なものです。

視聴者の方々の感想

最後に視聴者の方々のご意見をご紹介します。

アンケートで「同じことでも他人との考え方、理解のしかたに違いがあることを感じた」と回答していただいた方は85%以上であり、イベントに参加されたほとんどの方に対して私たちの思いは伝えることができたと考えています。

その他にお客様から頂いたご意見の一部をご紹介します。

「イベントに引き込まれる要素になっていた」
「参加者の言葉が可視化されてわかりやすかった」
「参加者の考えを元に対話を進めていてよかった」
「3回とも言葉を打ち込んでお客様の意見が出てくるのは単調だと感じた」
「このイベントや言葉というキーワードと科学がどのように結びついたかがあまり理解できなかった」
「最後の問いかけまでの流れが綺麗だと思いました」

たくさんのご意見を頂きました。今回のイベントを作り上げた経験と視聴者の方々のご意見を糧に次のイベント企画をより良いものとしていきたいと思います。

本記事は、2023年7月17日(月/祝)に実施した2023年 選科Aオンラインサイエンスイベント「ネットワーク」の報告記事の1つです。CoSTEPの選科Aコースでは、全国各地の選科A受講生が札幌に集まり、オンラインサイエンスイベントをいちから作り上げる3日間の集中演習を行っています。24人の受講生が4グループに分かれ、計4つのイベントが行われました。報告書ができ次第、以下のリンクより、ご覧いただけます。他の活動報告もぜひご覧ください。

・選科A活動報告「拡散希望?だが断る!」
・選科A活動報告「かわいい新エネルギー!? ~視点で変わる捉え方~
・選科A活動報告「推しごとノート