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CGMを駆使した地域活性化へ向けて―21日伊藤博之先生の講義レポート

2012.2.8

2月1日はクリプトン・フューチャー・メディア取締役の伊藤博之さんに、「初音ミク現象と世界」と題して講義していただきました。

VOCALOID(ボーカロイド)として今や世界的に認知されている初音ミクは、作った歌を歌ってくれるということ以上に、個人の創造性を発揮する新しい場を開拓しました。たった一つのソフトが、一体どのようにしてこれほど大きな社会現象を引き起こしたのでしょうか。

社会に「音」を提供する

初音ミクに注目が集まりがちですが、クリプトン・フューチャー・メディアは、そもそも、「音」を社会に提供し続けてきた会社です。Webを使った効果音の配信サービスや、Virtual Instrument(仮想楽器)を用いたPC上でのオーケストラや、ドラムセットの再現をするソフトなど、様々な「音」に関するツールを開発してきました。初音ミクも、人間の声を楽器として扱うというところが出発点にあります。制作時には「アニメ声優の声」という「楽器」を仮想楽器とすることで、面白い可能性が広がるのではないか?という期待感があったとともに、これを、どのようなパッケージとして売ることが良いのか、試行錯誤したといいます。

創作の連鎖

16歳、158cm、42kg。初音ミクは、単なる楽器ソフトとしてではなく、キャラクターとしての設定を持つものとして世に出されました。これが結果として音楽以外の創作を引き起こすことになったのです。イラストやアニメーションの作製、それを元にしたコスプレーヤーの出現やフィギュア製作など、創作の連鎖がネット上で広がっていきました。創作の連鎖が二次創作、三次創作となるにつれて問題となるのが、著作権の問題です。煩雑な著作権処理は、創作の連鎖を途切れさせてしまいます。そこで、伊藤さんは、VOCALOIDに関する著作権上のルールを簡略化することで、個人の創造性がインターネットを通じて自由に広がる仕組みを用意しました。それにより、インターネット上での自発的な創作の連鎖の広がりは、凄まじいものとなったのです。

世界と対等な地方

「数十年前に想像した未来が来てしまった。それを活用しない手はない」。伊藤さんは今の時代を独特の言い回しで表現していました。札幌で生まれたクリプトン・フューチャー・メディアが、札幌という地方都市から世界へと広がった発信の力は、インターネットや通信の進歩を抜きに語ることはできません。通信環境さえあれば、どんな世界にいても対等です。そこで差をつけるために必要なのが、創造性なのではないか、と伊藤さんは指摘しました。地方にいるからこそ、創造性を生かすための情報発信手法が必要なのです。

初音ミク×科学コミュニケーション

初音ミク現象は直接的に科学技術コミュニケーションと結び付くものではありません。しかし、現代のテクノロジーを生かした仕組みづくりや、個人の創造性を生かした活動の広がりといった現象は、科学技術コミュニケーションのあり方にとっても参考になる様々な観点を含んでいます。伊藤さんは質疑応答で、初音ミクの社会的広がりについて「できるだけ何もしなくても活動が広がるようにした」と答えていました。私たちは日ごろどうすれば科学コミュニケーション活動が広がっていくか、そのように考えることが多いと思います。伊藤さんの発想は、そうした発想を逆転するものとはいえないでしょうか。

自然に広がっていく活動は、多くの人が、自発的にそれを望まなければ実現しません。そう考えると、科学コミュニケーションが自然に広がっていくような社会が、私たちコミュニケーターが目指す最終目標なのではないかと感じました。

 三ツ村 崇志(2011年度CoSTEP本科生)