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モジュール1-3「博物館科学館において最先端の科学技術と社会受容をいかに展示するか」(6/1)塩瀬隆之先生講義レポート

2024.6.14

澤田 駿(2024年度グラフィックデザイン実習/学生)

今回の講義は京都大学総合博物館の塩瀬隆之先生に行っていただきました。塩瀬先生は現在、京都大学総合博物館で様々な科学の展示の企画などをされています。准教授であり、NHK for schoolなどの番組制作委員を務められるなど、様々なテレビ番組などで活動をされています。今日は塩瀬先生から博物館の役割とはという部分に焦点を当ててお話いただきました。

(お忙しいところ京都からお越しいただいた塩瀬先生)
大学博物館とは

京都大学博物館には長い歴史があり、120年にもわたる研究資料がおよそ260万点所蔵されています。京都大学博物館が大切にしているポイントは「基本的には研究という目で見る」ということです。これは研究という視点から物事を観察する博物館であるということを示していると私は考えます。大学博物館にはたくさんの分野の展示があります。どんなものがあるでしょうか?講義での投票において特に人気が高いものは「恐竜」、「宇宙」、「動物」、「考古学」でした。恐竜は博物館の中でも特に重要な展示分野だと思います。子供たちも興味を持ってくれると思います。動物も歴史をたどれば長い年月をかけて発展してきていると思います。動物は共通の祖先から分かれてきたと言われています。どのような過程で進化してきたかは大きなポイントになると思います。京都大学総合博物館においても「標本から見る京都大学動物学の始まり」と題して、京都大学における動物学の学問がどのように成長したかを紹介する展示が行われていました。このように博物館は学術的な情報を提供するだけにとどまらず、現在のニーズに合わせた科学技術を紹介しています。

(はじめに大学博物館の意義についてお話いただきました)
科学技術と展示

「科学技術を展示する」とはどういうことかを考えてみましょう。展示にはいくつかの種類があります。まず1つ目は「物の展示」です。これは物のための展示であり、目に見える物を展示することにつながります。私たちは視覚的に物から情報を得ることができます。次に2つ目は「情報の展示」です。これは物は存在しないのですが、何かから得られる私たちが視覚的に直接とらえることのできない情報を展示するということです。この「情報の展示」は最小限の重要性しかありません。最小限の重要性とは物から得られている少ない情報の量を表します。このように展示にはいくつかの種類があります。

さて、科学技術は展示しにくいという特徴があります。これはどういうことでしょうか?例えば、京都大学総合博物館には1896年に開発されたX線ガラス管が展示されています。レントゲンのX線の発見は世界中に大きなインパクトをもたらして日本でも追試が成功しています。現在では、医療など様々な方面において使われています。そのようなX線ガラス管はどれだけ面白がってもらえるでしょうか?やはり、ただ単純にX線とは何かを説明するだけではあまり面白がってもらえないと思います。こういう意味で科学技術は展示しにくいと言えるのではないでしょうか?では、このX線ガラス管の展示の説明をもう少し発展させてみましょう。X線は医療のみならず、宇宙や考古学でも使われています。例えば考古学ではそのようなことを専門分野としている先生と協力して鳥ミイラの謎に迫ったということがあり、その結果鳥ミイラの謎が分かったということがあります。もう一つ例を挙げてみましょう。たらこおにぎりと鮭おにぎりは区別がつくでしょうか?実は水分を捨てるご飯が一番通りにくいので簡単には見分けがつきません。このように、身近な話題に科学の話題を近づけて問いかけるという「教えない展示」を作るということが京都大学総合博物館で行われています。

質問と発問と問い

次に、質問と発問と問いの違いについてみていきましょう。一見同じように見えるこれらの言葉、実は違います。では、具体的に何が違うのでしょうか?それは問う側・問われる側それぞれが答えを知っているかどうかと機能の違いです。質問は問う側は答えを知らなくて、問われる側は答えを知っており、情報を引き出すトリガーとして機能しています。次に、発問は問う側は答えを知っていて、問われる側は答えを知らない、考えさせるためのトリガーとして機能しています。次に、問いは問う側も問われる側も答えを知らず、創造的対話を促すトリガーとして機能しています。では、具体的な例で考えてみましょう。「レモン大丈夫ですか?」は3つのうちのどの分類に入るでしょうか?これにも様々な意見がありました。質問と思う人、発問と思う人、問いと思う人、様々な考えを持った人がいました。

(居酒屋で「レモン大丈夫ですか?」と聞く問いは実は奥が深いのかもしれません)
ノーベル化学賞展

ここからは具体的な京都大学総合博物館の取り組みについてみてみましょう。まず、2018年に開催された福井謙一先生のノーベル化学賞展が紹介されました。福井先生はアジアで初めてのノーベル化学賞を受賞された方で、量子科学の研究をされていました。その福井先生の功績を展示するのにいくつかの工夫をしたということです。来館者と理論化学との距離をどのように埋めるかなど様々な工夫が行われました。観察日記を並べて森の中から展示室へという流れになったのがこの企画の工夫でした。気づくきっかけを用意することが大切であると塩瀬先生はおっしゃいました。

宇宙の記念展

2011年に京都大学総合博物館で「はやぶさ」という探査機の帰還の展示会が行われました。この展示会はものすごく人気があり、入場制限をしないといけないほどでした。展示条件が一方通行であったり、立ち止まってはいけなかったり、とにかく来館者に対するルールが非常に厳しかったのです。そこで、例えば展示ルートを工夫して物を4回見ることができるようにするなどの工夫が行われました。そんな来館者の一言ですが、「…ではやぶさはどこにあるんですか」。これは来館者の期待と博物館の提供情報の差を表していました。そこで、高校生の目線での「はやぶさ」プロジェクトのすごさを語るということも行われました。その結果、比較的伝わりやすかったということです。このことから、来館者の期待に沿った工夫ということが必要になるのではないでしょうか?

科学技術の対話の必要性

科学技術の対話の必要性についてみてみましょう。対話は国民の夢を科学者が共有するための対話なのでしょうか?科学者の夢を国民に共有するための対話なのでしょうか?答えはありませんが、科学者にとって大切なことは対話を通じて自分と相手の伝えたいことを共有することではないでしょうか?この対話のために大阪万博などで科学技術に関するイベントを開催しているということです。科学技術はこのようなイベントで伝えて関心を持ってもらうということが大切だと私は思いました。

(塩瀬先生に質問する著者)
終わりに

今回は博物館の社会における役割についてお話がありました。その中で、伝えたいことを共有していくことでさらなる科学技術の発展につながると思います。今回紹介できなかったイベントもたくさんありますが、イベントなどに足を運んでみてはいかがでしょうか?きっと目の前の視野が大きく広がると思います。

(片手でレモンをしぼるポーズでの集合写真)