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「科学計量学と科学コミュニケーション」/1010 調麻佐志先生の講義レポート

2012.10.18

10月10日は、東京工業大学大学院理工学研究科の調麻佐志先生による講義「科学計量学と科学コミュニケーション」が行われました。調先生は科学計量学がご専門ですが、科学技術社会論にも造詣が深く、『ハイテク社会を生きる』『科学技術時代への処方箋』などの書籍も執筆されています。

科学計量学とは?

科学計量学は、研究者数や研究費、文献など幅広いデータを用い、科学技術活動を数字で理解しようとするものです。その一例として、調先生はロシアにおける重要な疾患とその疾患に関する研究数との関連を表す「Comparison with disease burden, Lewiss 2011」を挙げられました。 
これは、データを見ることで「ロシアにとって社会的に重要な疾患であるかどうか」と「研究数」を関係づけてとらえることができます。たとえば、「アルコール性疾患は社会的に重要な疾患であるにも関わらず、他の疾患よりも研究されていない」などの事例を把握することができるのです。そして、このような定量的データは、「どの疾患研究に国費を多く投入するべきか」などといった今後の計画を立てる「行動」に役立てることができます。
科学計量学と科学コミュニケーション
科学計量学は、「意思決定を支援する」などの目的があるという点において、科学コミュニケーションと異なります。また、「正解」は誰も知らない、という点でも異なっています。科学コミュニケーションの場合は専門家が「正解」を知っている場合がありますが、科学計量学の専門家は、判断するための材料を提供するだけで、正解を知っているわけではないのです。しかし、科学にまつわる情報を圧縮してユーザーや利害関係者の間をつなぐことは、科学コミュニケーションと非常に類似しています。
科学計量学の課題
意思決定のプロセスにおいて、「一番わかっている人」が「意思決定者」ではない、という構造から問題が生じている、と調先生。専門的な知識を持つが権力が弱い「研究者」から、知識は持たないが権力の強い「政治家や国民または経営者」へとコミュニケーションしていく過程で情報が失われます。生じた知識差を穴埋めする、または手助けするために科学計量学による指標が必要です。しかし、科学計量学で圧縮した情報が、ユーザーに正しく受け取られるとは限りません。その例が「インパクトファクター」という指標です。どのぐらいよく読まれている雑誌なのか、を分かりやすくするために作られたものですが、権威を示す指標として間違った使われ方をされていることが多いそうです。

このような課題はありますが、コミュニケーションを双方向化し、フレーム・知識・情報・意見を共有することで、人々のニーズに近づくことのできるすっきりとした指標を生みだすことができるのではないか、と調先生は語ってくださいました。
(青井良平・2012年度CoSTEP受講生)