モジュール6「多様な立場の理解」の第2回目の講義は、元NHK科学番組ディレクターで(独)物質・材料研究機構広報室チーム長の小林隆司先生にお話頂きました。
■写真と動画の違い
大きな違いは、「時間の経過」。動画には、時間の経過とともに観る人の気持ちの流れが生まれます。この観る人の感情の流れを味方にしないと上手に伝えることが出来ません。「映像は心理学なんです」と強調し、次の3つのポイントで解説して下さいました。
1.逆算
何処で「感動」してもらうかを考え、感動してもらうにはその前にどのような気持ちになっている必要があるか、「逆算から考える」必要があります。おもむろに、スプーン1本を取りだし、みんなに回します。怪訝そうにスプーンがパスされますが、途中で、「実はそのスプーンは、ユリゲラーも曲げられなかった、1本7350円する曲がらないスプーンなんです」。とたんに受講生はスプーンを折り曲げようとしたり、写真を撮ろうとしたり、行動が変化しました。同じものを見せる時にどう提示するか、その直前に何を持ってくるかで行動が変わります。
2.キーワード発見
次のポイントは、「物を捨てるのは得意ですか?」という質問から入ります。PRとは捨てる作業だと言います。1分の番組の宣伝CMを観せた直後に、何日の何時ですか? 場所は何処ですか? ゲストは誰ですか?と質問を投げかけても、教室内は誰も答えられませんでした。情報量が多すぎて覚えきれず、これでは結局何も伝わりません。
何を観てもらいたいか決めたら、決めたこと以外は徹底的に捨てること。捨てることで、PRするときのキーワードが見えてきます。
3. 塗り絵方式
専門家は細かな部分から、全てを順に説明しがちで、聞く側は途中で飽きてしまいます。そこで、全体の輪郭を示し、順に細部を説明する「ぬり絵方式」をテレビ制作では使用します。そうしないと「チャンネルを変えられる」からです。
講義の後半では演習を行いました。
江戸彼岸桜、20mの枝 樹齢400年の桜の木、伸びる若い枝、満開は3月末、一人で世話をした中山さん、市民が中山さんを偲ぶ花見会、という6項目があり、「山場を決めて逆算する」を考えながら、構成を考えます。
小林さんなら「伸びる若い枝」が山場と考えます。老木なのにまだ若い枝が出ている。その陰には、木の世話を続けた中山さんの存在がある。中山さんの話を聞いて見る枝と、聞かないで見る枝は視聴者の心理が異なります。
そうやって、「逆算」と「心理」を巧みに使いながら構成の解説をしてくださいました。
講義を終えて、映像制作は、構成と編集の力で、視聴者の感情を誘導することが出来ることを強く感じました。
また科学を人に伝える場合においても、分かりやすくだけではなく、相手を感動させるような気持ちの流れを作ることの重要性を実感しました。
(2013年度本科生・重田光雄)