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モジュール3-3「探究を文化へ。:シチズンサイエンスによる『科学と社会』の環境デザイン」(9月26日)森田泰暢先生講義レポート

2026.10.30

近藤茜(2026年度選科B受講生)

モジュール3「活動のためのデザイン」の第3回は、「探究を文化へ。:シチズンサイエンスによる『科学と社会』の環境デザイン」と題し、福岡大学商学部経営学科の森田泰暢先生による講義が行われました。

1.探究する文化を醸成する

森田先生は、経営学・農学・理系のキャリアカウンセラー・デザインリサーチなど多彩な分野を経験され、現在の「シチズンサイエンス」にたどり着かれました。そんな先生の活動におけるテーマが「探究する文化の醸成」です。

先生は「文化」を、〇〇らしさという「価値観」と、どのように行動するかという「行動パターン」が合わさったものと定義されています。「探究っていいよね!」という価値観と、インプットやアウトプットといった研究行動をどのように根付かせていくかが、活動の核となっています。

このテーマを掲げるきっかけとなったのは、お子さんの誕生でした。「どんな社会にしたいか?」と考えた際、「好奇心を邪魔するヒマな大人が増える社会はイヤだ!」という強い思いを抱いたそうです。そこから生まれたのが、「ヒマな時間に研究しよう」をコンセプトにしたコミュニティ「ヒマラボ」でした。ヒマラボではメンバーがやりたいことを自由に探究・探究でき、ここから博士号を取得する人が現れたり、シチズンサイエンスの研究センター立ち上げに発展したりと、本格的なアカデミックの成果にもつながっています。

2.シチズンサイエンスの可能性

そもそも「シチズンサイエンス」とは「市民参加型科学」とも呼ばれ、市民主体、あるいは市民と研究者が共同で行う科学的活動全般を指します。市民の関わり方にはいくつかの型がありますが、代表的なものが「貢献型」です。たとえば、スマートフォンを活用して市民から生物の生息情報を集め、データを蓄積するような活動が挙げられます。研究者単独では限界がある調査も、市民の力を借りることで膨大なデータを収集できたり、想定外の実態を把握できたりと、市民参加によって研究の可能性が大きく広がります。

かつては研究者と市民の間に情報格差がありましたが、インターネットの発達に伴い情報がオープン化され、フラットな関係性が築けるようになってきました。
一方で、シチズンサイエンスを推進する上では、以下の4つの課題が存在すると言われています。

① 広報システム(参加者をどのように集めるか?)
② 参加者の研究倫理の保持(貢献したい意欲とルールの遵守のバランス)
③ 橋渡し(研究者と参加者をどうつなぐか?)
④ 資金不足(活動資金をどう調達するか?)

森田先生は「これらはマーケティング、マネジメント、ファイナンスといった、すべて商学の領域に分類できる課題であり、自身の専門である経営学がシチズンサイエンスの課題解決に寄与する」と語ります。

また、講義では「探究コーン」という概念も提示されました。シチズンサイエンスを普及させるには、アクティブ・ブック・ダイアローグ(読む)、サイエンスカフェ(対話する)、実験教室(試しにやってみる)といったステップを通じ、まず「探究は楽しい!」という下地を作った上で、より専門的な活動へと展開していくことが重要とされています。具体的な取り組みとして、「読む・対話する・実験する」を100分で体験するプログラムや、身近な店舗で手に入る素材で実験を行う「チェーンストアサイエンス」の事例が紹介されました。こうした仕組みが「科学的な行動パターン」を生み出すカギとなります。

3.街や企業とシチズンサイエンスの事例

後半では、これまでの具体的な活動事例が紹介されました。

街✕シチズンサイエンス(太宰府市)

太宰府市・大学・企業・市民が連携した事例です。それぞれの主体が異なる目的を持ちながらも、同じ目標を達成できるよう関わり方をコーディネートした取り組みです。長期間にわたり地域に寄り添いながらシチズンサイエンスを取り入れたことで、関わる人々の研究倫理が高まり、サイエンスコミュニケーションが地域文化として根付いた好例として紹介されました。

企業✕シチズンサイエンス

市民はスマホを使いゲーム感覚で楽しく生物の写真を撮影し、企業は自社だけでは収集が難しい場所のデータを取得できるという、双方向にメリットのある取り組み事例です。

シチズンサイエンスにおける課題

シチズンサイエンスが広がる一方で、市民側の研究倫理が十分に浸透していない点も浮き彫りになってきました。例えば「ランキング上位を狙うあまり行き過ぎた行動をとる」「研究者に喜んでもらうためにルールを破ってしまう」といった懸念や、それを抑止するための罰則規定がないという問題です。
これに対し森田先生は、罰則による管理ではなく「誠実な文化の醸成」を目指す重要性を指摘。そのための倫理の要として「プロジェクトマネージャーの育成」が今後の普及に欠かせないと強調されました。受講者からも「大人数が協力する際、データの質を担保しながら参加者のモチベーションを下げないためのバランスの取り方」について質問が寄せられました。

4.好奇心中心のコミュニティ作り

最後に取り上げられたのは、古い建物を見学しながらリノベーションについて議論を深めるコミュニティの事例です。リノベというテーマを軸に事例発表や対話を行い、さらに内容を冊子化・体系化していくという、あたかも「学会」のような活動が科学の外側で展開されていました。

ここでは「正解や答え」ではなく「テーマ」を中心に据え、「正しさ」よりも「楽しさ」でつながり、共通の行為を通じて「学会らしさ」が生み出されるという、「好奇心中心のコミュニティ」の理想的なあり方が示されました。

まとめ:研究活動から生まれる公共性の可能性

インターネットが発達した現代社会では個人化が加速し、他者と深く関わらなくても生活できる環境が整いました。しかし、個人化が進みすぎると社会的「公共性」が損なわれてしまいます。森田先生は「楽しさでつながる関係性や、自分たちが作ったものを交歓して楽しめる場が今こそ必要。シチズンサイエンスのその先に、温かい人のつながりが生まれてほしい」と締めくくられました。

「科学的活動」と聞くとハードルの高さを感じる市民も少なくありません。その中で、いかに科学的な視点を楽しく身につけてもらうか、活動を継続させるためにどのような工夫が必要か、そして自分ごと化してもらうための関わり方とは何か——多角的な視点と豊富な事例から学びの多い講義となりました。市民と科学者をつなぐ場づくりにおいて、科学技術コミュニケーターが果たす役割の大きさを改めて実感させられます。

   森田先生、ありがとうございました!