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はやぶさ、そうまでして君は

2012.11.15

著者:川口淳一郎 著

出版社:20101200

刊行年月:2010年12月

定価:1200円


一昨年6月、小惑星探査機「はやぶさ」の帰還に日本中が沸いた。本書は、困難な使命を果たし奇跡的に地球に帰還した「はやぶさ」の感動ドラマであり、著者は「はやぶさ」生みの親の宇宙航空研究開発機構(JAXA)教授・川口淳一郎である。プロジェクトリーダーが語る感動物語は、「はやぶさ」を「君」と呼ぶだけあって、熱い想いと説得力を感じる記述となっている。

 

 

「はやぶさ」は、2003年5月9日、鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられた。このミッションは当初、2年4カ月の惑星間航行をして小惑星イトカワに到着、サンプルを採取し地球に持ち帰ることだった。それが7年間、実に60億kmの長きにわたる航行となり、2010年6月13日にようやく地球に帰還し燃え尽きた。本書では、「はやぶさ」プロジェクトの発端から、開発、打ち上げ、イトカワへの到着、その後の迷走、帰還が丁寧に語られている。

 

 

「はやぶさ」の挑戦は、技術的に大きな壁を乗り越え、世界で主導的立場を目指したハイリスク・ハイリターンの試みだった。イオンエンジンの稼働運転、地球スイングバイによる航行、自律誘導航法によるイトカワとのランデブー、小惑星の科学観測、小惑星にタッチダウンしてのサンプル採取、小惑星サンプルの入手、いずれも世界的な快挙だ。4つのイオンエンジンのうち2基に異常が発生し、そのまま停止したが、残りの2基のイオンエンジンを組み合わせた「クロス運転」により、奇跡的に航行を再開した。アイディアと奇策、そして奇跡に感動し、絶対に諦めない不屈の研究者魂にただただ敬服する。「はやぶさ」が宇宙へ飛び立ち、そして地球へ帰ってくるまでに、プロジェクトチームの人たちが、どれだけの苦労を積み重ね、情熱を持って困難を克服してきたかを知ることができる。

 

 

宇宙開発物語であるものの、科学技術の専門書のような硬い本ではない。「はやぶさ」を「満身創痍」とか「生命維持装置をつけて」とかの表現により、理解と親しみを深めてくれる。イトカワのことをその形から「ラッコ」と呼んだり、運用室の暗証番号を語呂合わせで「8823(ハヤブサ)」にしたり、といった秘話も随所に登場する。東京の台東区にある、空飛ぶお不動さま「飛不動尊」への安全祈願は、人間味があって興味深い。

 

 

この本を読むと、科学技術の素晴らしさ、宇宙の壮大さを感じることができ、日本人に誇りと勇気を与えてくれる。技術的な内容は易しい文章で書かれており、とても分かりやすく、多くの方におすすめである。

 

 

宮 正光(2012年度CoSTEP選科生 新潟県)