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「科学技術コミュニケーション原点と座標軸」5/11石村源生先生の講義レポート

2014.5.24

開講式の翌日から講義モジュール1が始まりました。その初回の講義は、CoSTEP特任准教授の石村源生先生の担当です。タイトルは「科学技術コミュニケーションの原点と座標軸」。科学技術コミュニケーションを学び始めるにあたって、その意義と成り立ち、現状を概観することのできる内容です。

科学技術は社会に分かちがたく浸透しながらも、両者の関係は複雑なものであり、科学技術だけでは答えられない問題が近代社会に突きつけられているという背景において、科学技術コミュニケーションが必要とされるようになりました。では、「科学技術コミュニケーション」とは、そもそも何でしょうか。さしあたり、「科学技術の専門家と市民、市民同士、あるいは異なる分野の専門家同士、その他、あらゆる立場の人々が、専門家/非専門家、文系/理系、賛成/反対という垣根を越えて、双方向に意見を伝え合い、議論を重ねることによって、科学技術と社会のより良い関係を構築しようとする活動」と述べることができますが、これはあくまでも暫定的なものです。現状では専門家や各種公的機関などからさまざまな定義が提唱されてはいますが、唯一絶対的な「正解」があるわけではないのです。

次に視点を変えて、科学技術コミュニケーションの成り立ちの話へと進みます。1980年代の英国では「公衆の科学理解」の必要性が認識されるようになりましたが、1990年代にBSE問題の発生とそれに対する政府や専門家の対応から、公衆は科学への不信感を抱きました。そこで、科学的知識を市民に一方的に注ぎ込み啓蒙すればよいという「欠如モデル」に替わる、新たなモデルが必要になってきました。

日本では、1995年に「科学技術基本法」が制定され、以降5年ごとに「科学技術基本計画」が策定されています。「基本計画」の変遷を見ると、科学技術コミュニケーション活動の必要性に紙幅が割かれるようになってきたことがわかります。第4期の基本計画では特に、科学技術コミュニケーション活動が一層促進されるべきこと、研究機関においてはその活動が業績評価に反映されていくことが期待される、ということが記載されました。

あらためて、科学技術コミュニケーションについて、多様な立場から眺めてみるとどうなるでしょうか。研究者の立場からみると、研究の魅力や重要性のアピール、後継人材育成などの目的があるといえます。また、一般市民の立場からみると、科学技術に対する知的好奇心を満たしたり、科学技術関連情報が適切に与えられ、意思決定したりするという目的があるでしょう。そのほか、科学技術社会論、理科教育、大学経営、科学技術政策、経済産業政策、ジャーナリズム・メディアの立場からも多様な目的があることが指摘されます。このように、多様な立場の人々が、「科学技術コミュニケーション」という概念枠組みをそれぞれの目的とするところから解釈し、利用しようとしているしている現状がわかります。

以上のことを踏まえると、科学技術コミュニケーションの定義は極めて難しいといわざるをえません。さらに、そもそも「科学」とはどういうものかという定義を与えることさえ困難である、ということが、科学哲学の研究者の間で指摘されています。では、それにも関わらず我々が共有できる最小限の前提は存在するのでしょうか?

石村先生は、科学技術コミュニケーションの成立過程・機能・目的という3つの視点を考え、科学技術コミュニケーションに関わる活動をこの3つの次元から立体的に位置づけてみることを提案します。

とはいえ、私たちは科学技術コミュニケーターとして現実に活動しつつあります。実践者としての「自分」を考えたときに、どう行動したらよいのでしょうか。石村先生は、これまで述べてきたことに十分配慮しなければならないと強調しつつも、それらを考えるあまり足が止まってしまわないように、「身近なところから実践を始める。実践を重ねるごとに、自分にとって相応しい(=がんばって背伸びすれば取り組めるようなちょうどよい難易度の)、新たな課題に出会うはずだ」というメッセージで講義を締めくくりました。

この講義では、科学技術コミュニケーションの意味・意義とその成り立ちといったいわば「原点」を確認すると同時に、科学技術コミュニケーションの歴史や政策、多様な立場からの目的、上記の「3つの視点」といった「座標軸」に相当するものを紹介していただきました。こうした原点と座標軸を心にとめることで、科学技術コミュニケーターとしての自身の活動がどこに位置づけられるのか、どのような軌跡を描くことができるかを確認することができるでしょう。この講義は、自身の活動を折に触れて省みながら今後の学習を進めていくための指針になるのではないでしょうか。