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「社会の中での科学技術コミュニケーター役割」531日隈本邦彦先生の講義レポート

2014.6.4

レポート:福井佑梨(2014年度本科・工学部環境社会工学科4年)

「僕が答えを持っていて、皆さんがそれを学ぶというのではない。これから皆さんが答えを見出していくのかな、と思いながら僕の考えを話したい。」そう講義を始めた隈本邦彦先生。長年NHKの報道記者としてご活躍されたのち、その科学ジャーナリスト経験を活かして2005年CoSTEP立ち上げにご尽力された方です。CoSTEPのいわば大御所である隈本先生ですが、まるで新進気鋭の若手を思わせるような情熱で軽快に講義を展開してくださいました。

科学者と社会の間のギャップを埋める

「時代の変化に伴って、科学者や科学そのものに対する社会の目は変化してきた」という話題から始まり、先生は科学者と市民間のギャップについて語りました。特に印象的だったのは「漠然とした不安」という言葉です。これはその名の通りで、例えば「下水の高度処理水は山の湧水よりきれい」とデータを示されても、何となく飲みたくない…と思う気持ちのことです。このような「科学的には説明できない市民の漠然とした不安」を科学者に伝えていくこと、これも科学技術コミュニケーターの重要な役割のひとつだとわかりました。

科学ジャーナリズムとトランスサイエンス問題

「ギャップ」を埋める科学技術コミュニケーションのひとつとして科学ジャーナリズムを先生は例にあげました。「科学記者の育成体制が旧態依然としていることは大きな課題である」と、言葉に熱がこもります。

それに関連して「トランスサイエンス問題」が挙げられました。これは「科学に問うことはできるが、科学だけで答えが出せない問題」のことで、1972年アルヴィン・ワインバーグ博士が提唱しました。例えば「原発再稼働の是非」がそうです。科学者がいくら安全予測値を出したとしても、原発を再稼働するかどうかには政治的、社会的判断が必要不可欠な要素として絡んできます。今まで科学ジャーナリストはこのようなトランスサイエンス問題に対して科学者のみに判断を求めてきました。しかしこの問題において「科学者の第一の使命は、どこまでが科学によって解明でき、どこからは解明できていないのか、その境界を明確にすることである。」博士の言葉を引用して、先生はこれからの科学ジャーナリズムのあり方を示唆しました。

社会の「弁護士」として

最後に先生はCoSTEP修了生の社会における役割を「弁護士」と表現しました。「科学者」、「市民」「科学ジャーナリスト」などそれぞれの立場に修了生が科学技術コミュニケーターとして存在する。それぞれがその立場を弁護し、情報を説明することができる。そんな未来を思うと、これからの学習に意欲が湧いてくるのでした。