今日の講師はCoSTEPの早岡英介先生。「映像表現を科学技術コミュニケーションに生かす」というタイトルでの講義です。NHKの科学番組などを制作してきた元ディレクターとして、映像制作の現場を踏まえた話が展開されました。
情報伝達手段が多様化し、情報技術が高度化することによって、人々のライフスタイルが大きく変わってきています。若い世代では、スマートフォンなどで情報を得る時間が、テレビなどに比べて多くなってきています。こうした時代においては、「複合的なスキルを身につける必要性」が高まってきています。
コンピュータやインターネットなど情報技術が高度に発展することにより、様々な職種が影響を受ける状況になりつつあります。こうした時代でさえ、文脈や人の心理を理解したり、創造的な表現をし、物語を作ることは、まだ人間にしかできないと言えます。映像制作には、これらの要素を総合的に学ぶことができるので、メディアトレーニングとして有効だという早岡先生。「映像の“読み書き”は“21世紀のリテラシー”」なのです。
近年は「あらゆるメディアに映像が埋め込まれていく」と言えるでしょう。文章や画像だけでなく、動画を埋め込み、デザインを凝らしたウェブ雑誌が出現しています。私たちは、いろいろなメディアを組み合わせて、多様な情報を効果的に伝えることができるようになってきています。その際、最も重要なコミュニケーションツールの一つは、映像なのです。
科学者同士の共通言語といえば、英語や数式、専門用語であると言えますが、映像も実は「共通言語」と言えるのです。平易な言葉や非言語コミュニケーションを使って、ときには言葉なしに、直感的に伝えることができるのです。現に、早岡先生がかつて制作した科学・自然番組は、外国に輸出され視聴されているそうです。
早岡先生は、映像の特性を次の5点に整理します。「1.感情に訴えやすい。2.直感的な理解。3.同時性。4.一瞬でメッセージが伝わる。5.想像を超えた世界を創る」。それぞれの点について、映像素材を使って解説してくれました。受講生は食い入るように見つめています。映像の中には、非常にインパクトのあるもの、情感的な内容のもの、どっと笑いが起こるものがありました。まさに映像の力を感じさせます。
最後に、科学番組の元ディレクターとして、テクニカルのこと、そして、企画の重要さを語ってくれました。映像作品を制作する際には、「企画が一番大事、そして一番難しい」とのことです。企画のコツとしては、自らの経験を踏まえて、日常の中で面白さを見つけること、発想を逆転してみること、「あっ」と言わせる企画を常に考えることが大切だと、力説していました。
このように、伝えるツールとして多様な利点と魅力をもつ映像メディアを使いこなすには、どうしたらいいのでしょうか。「それは、実際に作ることです」という早岡先生。映像制作は敷居が高いように思われますが、とにかく指導者についてやってみることが習得への早道だ、とのことでした。