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「技術の現場から見た科学技術コミュニケーション」12/13 小寺昭彦先生の講義レポート

2015.1.10

いよいよ、モジュール7がはじまりました。テーマは「社会における実践」です。一人目の講師は昭彦さん(フリーコーディネーター&サイエンスカクテル)。小寺さんは、工学部を卒業後、13年間の化学メーカー勤務時代に様々な現場を経験して、技術者の仕事を俯瞰されました。その後フリーランスとして14年活動されています。「サイエンス・コミュニケーションの実践主体は大学、ミュージアムで、科学の問題には関心があっても、技術の問題には関心がないのではないか。」という問題意識を持たれながら、フリーランスとして活動するご自身の実践についてお話くださいました。

「CoSTEPの講義一覧を見て、技術者や現場で働いている方が講師の中にはいっていないな。みなさんは、技術者がどのように働いているがご存知でしょうか。」講義の冒頭は、質問の投げかけから始まります。

化学メーカーに就職

大学時代「これからはセラミックスの時代だ!」と社会では言われていました。このような背景の元、化学メーカーに就職しました。セラミックス粉末は、歯磨きや断熱シートなどに使われています。小寺さんは、セラミックス粉末(セラミックス成形品)の開発・製造・評価・販売・研究を行っておられました。工場技術部でのリアクティブアルミナ(セラミックスの一種)の開発や工場研究開発部でのアルミナの評価方法の研究、技術出身者としての営業の仕事、その他にもいくつもの部門を経験してきました。

モノづくりの現場では「三現主義(現場・現実・現物)」が徹底されます。ラインの管理でスタッフの作業長として担当した現場主任では、出荷責任、安定操業、原価管理を行ったこともあるそうです。

工場で働いている人はトレンディドラマの主人公にならない?!

「ほとんどの方は、工場でどのような仕事をしているか知りません。だからドラマにもならないですよね。配管が壊れたからデートに行けない!なんて、ドラマの台本は聞いたこともありません。」と笑いながら話される小寺さん。6年間工場勤務をした後、技術者として営業を行いました。営業では、メーカーで作っている商品に使われる素材がこれからどのくらい必要とされるのかを推測するために、現場のことを熟知しなければなりません。また、メーカーが、セラミックスに対して必要としている潜在的ニーズを見抜く必要があります。セラミックスの素材は様々な製品部分で使われているのです。一方で、どの部分に使用しているかは、他の競合他社との差別化として重要なために、情報が漏れないようにしています。ですので、素材を扱う私たちにも、なかなか情報が入ってきません。そこで、相手企業の生産ライン、つまり現場に行って「何が必要なのか」「どのような性質を求めているのか」「どんな動向になっているのか」実際にヒアリングを行いました。普段から勉強して、テクノロジーコミュニケーションを取らなければ、仕事にならないのです。

「日本のものづくりは化学にはまだまだ可能性があると思います。素材に関しては海外には成し得ない強みをもっています。」と日本の技術について話されました。

フリーランスとして

メーカー勤務の新入社員時代に叩きこまれた三現主義(現場・現実・現物)。このおかげで、退職してすぐに、環境教育の現場に北欧ではスウェーデンやデンマーク、ドイツ、日本国内も様々な現場に足を運んだそうです。初めはご自身の勉強として訪問されていたそうですが、次第にツアーを組むなど仕事として実施するようになりました。仕事として人とコミュニケーションをとる中に、表面ではない関わりがあるからだそうです。これが、フリーランスとして活動を始めた2年ほどの出来事です。その後、ライターとして岩波科学、環境報告書など執筆したり、科学技術と社会の授業を総合学習で行ったりされました。科学技術に関するワークショップの開発も行い、その他にも、教育講座の企画運営や小中学校の環境教育の実践、NGOのプロジェクト企画、地域活動をされました。技術的な業務経験を活かしたいと思っていたものの、なかなか思うようにはいかず、きた仕事をこなす時期が続いたそうです。そのような時期を経て、最近では技術的な経験を活かす仕事が増えてきました。

小寺さんの肩書は、年々変化しています。「フリーライター・コンサルタント」としていた肩書は、変化を重ねながら今では「フリーコーディネーター・コミュニケーター」となっています。コーディネーターとは、ニーズのマッチングをする仕事です。クライアントや顧客、社会のニーズ真のニーズを見つけることがコーディネーターの最も大切な仕事なのです。

最後に、小寺さんのめざす未来についてお話いただきました。「技術と社会の関わりについて、コミュニケーションの場が開かれていること、特に、リスクコミュニケーションが適切に行われている社会にしたいです。それにより、様々な技術が社会的に認知され、信頼関係がが醸成され、促進されることを願っています。また、それらを通じて技術者が社会的意義を感じてモチベーションを向上させたいのです。」と話されました。

「技術者がどんなモチベーションで、どんな仕事をし、社会とどのように関わるのか。少しでも関心を持ってもらえるとうれしいです。」と締めくくりました。