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「科学技術コミュニケーション原点と座標軸」5/17石村源生先生の講義レホート

2015.5.24

レポート:碓氷光(2015年度本科 理学部数学科4年)

 

いよいよ2015度の講義が始まりました。年間を通して28回ある講義は、8つのモジュールにわけられています。その皮切りとなるモジュール1「科学技術コミュニケーション概論」では、科学技術コミュニケーションの全体像を把握し、コミュニケーターの果たすべき役割を考えていくことが目標です。初回の担当はCoSTEPの石村源生先生。科学技術コミュニケーションの意義や成り立ち、日本における現状を確認していきます。

科学技術コミュニケーションとは何か

科学技術コミュニケーションを最も簡潔に定義すると、「科学技術の専門家と社会の橋渡しをする双方向的な活動」となります。しかし、実際には極めて多様な目的や活動があり、どの定義でも不十分な言及しかできていません。科学技術コミュニケーションの重要性が認識されてきた社会的な背景も、この定義を考える上で重要です。科学技術の社会に対する影響力は大変大きくなりました。科学的に扱う必要のある領域も、自然現象だけでなく社会現象や人間そのものに対する割合が増えています。従来の科学観だけでは、この状況へ対応しきれていないのです。

世界的な潮流

20世紀後半は、啓蒙型の科学普及活動から対話型の科学技術コミュニケーションへの変遷の時代でした。それまで科学普及活動が活発だったイギリスでは、牛のBSE問題をきっかけに科学を取り巻く状況が一変します。BSEが人間に及ぼしうる影響を検討していた政府や科学者の不十分な対応が、科学に対する強い不信感を引き起こしたのです。また、科学的知識の有無が必ずしも科学への関心の向上には影響しないとわかってくるのもこの頃です。さらに、ブダペスト会議(1999年)は科学の民主化が強く意識される端緒となりました。公衆の科学理解の促進や一方向的な啓蒙では、影響力を増す科学をガバナンスするには不十分でした。公衆の要求を汲み取った形で情報提供に努める科学者の姿勢や、科学の社会的役割に対する再検討が必要だったのです。

日本における科学技術コミュニケーション

日本でも、2005年頃を境に啓蒙型から対話型への転換がうたわれ始めました。CoSTEPが活動を始めたのも2005年で、この年は日本における「科学技術コミュニケーション元年」とも呼ばれています。研究機関の広報や科学館、メディアなど、従来それぞれの目的の下に行われてきた活動も、「科学技術コミュニケーション」という名で一括りにまとめられていきました。これが、はじめに述べた、極めて多様な目的や活動が共存することとなった背景の一つです。こうした経緯の中、共有できる前提を設定し、科学技術コミュニケーションが進むべき方向性について論じていくことは可能なのでしょうか。

改めて科学技術コミュニケーションとは何か

最終的な統一見解というよりは、現状記述的な分類によって、科学技術コミュニケーションを以下の3つの視点から組み立てていきます。個々の実践者の側から見る「成立過程の視点」、どのような機能を果たすべきかという「機能的な視点」、最終的に何を目指すかという「目的の視点」です。それぞれの視点が科学技術コミュニケーションを捉える座標軸の一つとなり立体的なフレームを提供します。振り返ってみると、「科学とは何であるか」という問い自体にさえ、明確な解答はないのです。

最後に受講生へ問いかけられたのは「理科離れ・科学嫌い」の問題です。そもそもなぜ「理科離れ・科学嫌い」が注目されるのか。それは本当に起こっているのか。社会がうまく機能しているならばそれでいいのではないか。こうした問題に条件反射的にまずいと反応するのではなく、繰り返し自問することこそが、科学技術コミュニケーションを考え実践していくための第一歩となるのではないでしょうか。

———石村先生が勧める、より深く学ぶための文献———(本レポート筆者も読んでみました)

◎小林傳司『トランスサイエンスの時代』

 双方向的活動とは、具体的にどういうものかを論じる。この本自体が、科学者共同体へ向けた科学技術コミュニケーションを実践しているともいえる。一度は眼を通しておくべき必読書。

◎小川正賢『科学と教育のはざまで』

 理科と科学教育の違いやその教育的価値、普及価値を巡った議論。

◯藤垣裕子、廣野喜幸編『科学コミュニケーション論』

 幅広い情報量を備える入門書。伝えること、受け取ることなどコミュニケーションへの基本的な言及も充実。

◯伊勢田哲治「科学の拡大と科学哲学の使い道」(『もうダマされない科学講義』収録)

 科学と疑似科学、伝統的な知識の違いとは何かを論じる。

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