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「実践入門」6/20大津珠子先生の講義レポート

2015.6.26

レポート:小坂有史(2015年度選科 研究補助員)

今回は、2005年の第一期からCoSTEPに関わってきた大津珠子先生が「実践とはなにか?」について、ご自身の経験を例にお話ししてくださいました。

毛利さんのリンゴ

今回の講義は、1992年に日本人で初めてNASAのスペースシャトルに搭乗した毛利衛さん(日本科学未来館館長)を特別ゲストに迎えて、毛利さんが行った宇宙授業の紹介から始まりました(毛利さんのお話はこちら)。毛利さんは、宇宙飛行中に母校である余市町黒川小学校の子どもたちからリンゴを投げてもらい、スペースシャトルの中で受け取って重力をテーマにした世界初の宇宙授業を行いました。この授業は、宇宙はもう手の届くところにあるというメッセージを伝えることに成功した、初の科学技術コミュニケーション実践ではないか、と大津先生の記憶に強く残っているそうです。

実践とは?

「実践とは、挑戦であり、実戦であり、身体を動かすこと」

私たちは様々な理由で、頭の中で考えている事をそのまま頭の中に留めてしまう事があります。しかし、勇気を持って一歩踏み出して実践することにはとても大きな意味があります。さらに「科学技術コミュニケーションにおける実践とはソーシャルデザインです。そしてイノベーションを目指すことです」と大津先生は言い切りました。

実践するために必要な事は準備です。その際に最も大事なのは、より多くの市民・参加者に感動を残すためにどうすればよいのかを考えることです。その上で(1)企画書作成、(2)話題提供者との折衡、(3)行程管理、(4)広報、(5)当日の進行、(6)評価を行っていきます。

「気付き」や「本気で考える」きっかけに

サイエンスカフェ札幌「生命に介入する科学」では、人の生命をコントロールするというトランスサイエンス問題について議論をスタートさせたい、と企画を考えたそうです。企画者である大津先生は、話題提供者である石井先生と何度も話し合いをしました。この実践を通して石井先生が「主役は話題を提供する人ではない。参加者も主役になると気づいた」とおっしゃったそうです。参加者からいただいたアンケートの中には、厳しい意見も含まれていたと言います。しかし、この実践は、参加者がトランスサイエンス問題について本気で考えるきっかけになりました。

感動を伝える 効率よりも体験を

学研の学習雑誌『科学』が復刊するというニュースが流れたのが2012年。子供のころ『科学』に夢中になっていた大津先生は感動のあまり編集長に「北海道大学と学研とが一緒になって科学イベントをやりませんか?」と電話で直談判して、学研の協力を得ることができたそうです。その時取り組んだのは、寒天に食塩と紫キャベツの色素アントシアニンをまぜ、電気を流すという実験でした。これは、電気を流すと食塩の電気分解によって電極の周りのアントシアニンの色が大きく変化する性質を利用した、視覚的に分かりやすい実験です。

しかし大津先生は、ただ実験をやるだけでは面白くないと、色の変化を利用して作品を作るアートと、この実験を融合させ、子供たちに身近な化学現象を体験させることに成功しました。異なる分野との融合や挑戦によって、科学技術コミュニケーションの可能性が広がる事がこの例からわかります。

小さな発見と実践する勇気

科学技術コミュニケーションにおける実践の始まりは、小さな発見と勇気です。科学をめぐる社会の関心ごとに目を向け、課題を発見し、その課題について勇気持って一歩踏み出すことによって、初めて実践のサイクルが回り始めます。

そのサイクルを、1度ではなく何度も繰り返してみよう、実践の小さな一歩をたくさん歩み続けてみよう、という気持ちになった90分でした。大津先生、ありがとうございました。