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『データから見る「科学技術コミュニケーション」実際(と限界)』9/26川本思心先生の講義レポート

2015.10.27

レポート:南波 美帆(2015年度 選科A/会社員)

みなさんは「科学技術コミュニケーションとは何か?」という問いにどのように答えるでしょうか。

科学技術コミュニケーションについて、研究者の間でも様々な目的や成果、考え方が存在します。この捉え方の「ズレ」について、また科学技術コミュニケーターにとって重要なツールであるデータについて、川本思心先生より『データから見る「科学技術コミュニケーション」の実際(と限界)』と題し、講義を行っていただきました。

データとは

データとは主張・判断・意思決定を支える情報であり、客観的な素材です。数字は客観性があると思われがちですが、プロセスが明らかでないと客観的とは言えません。ある目的のために全体を把握するデータが必要になってきたこと、また科学技術の進歩によってデータを得る調査・分析の方法が発展し、そして市民社会の成熟によってデータの扱い方までが変化しているということを、国勢調査(全数調査)や世論調査(標本調査)を例に、それぞれの歴史的背景や目的を通して紹介していただきました。

研究の結果が、研究者の認識とは違う解釈で世の中に伝わることがある例として、ネイチャーに掲載された、日本の研究者の科学技術コミュニケーション実施経験者の割合の表現方法を挙げられました。データは単純に存在するだけでは意味がなく、目的・仮説・取得方法・取得結果・分析方法・分析結果・見せ方を適切にする必要があります。

データから見る科学技術コミュニケーション

科学技術コミュニケーションのためのデータとして、1)研究者間のずれ、2)研究者と市民のずれ、3)一般市民のリテラシーをテーマにした調査が紹介されました。

冒頭の問いに関して、活動の実態および研究者間の意識や環境のズレを把握して、科学技術コミュニケーションの現状把握をしようという調査があります。質問紙調査によって得られた複数の回答を因子分析とクラスタ分析によって分類するもので、調査の結論は以下のようになりました。

・科学技術コミュニケーションに対する意識は多様である。

・科学技術コミュニケーションの意識は活動経験や支援体制の有無と関連している。

この調査では、未経験者は社会的意義と効果を高く見積もる傾向が出ました。この点については、サンプルバイアスの指摘があり、未経験でも回答する時点で期待がある可能性が高く、この点において経験者とのギャップがあるようです。

また、pewリサーチセンターの調査結果から、科学技術政策に関する研究と市民のずれについては様々な文化的背景により、研究者(専門家)が市民にわかりやく説明しても受容できるとは限らず、いかに異なる知識や利益を調整するかという科学技術コミュニケーションの課題を指摘されました。一方で、科学技術リテラシーの多様さについては、知識量が多くても科学に対する価値意識を持つとは限りません。科学に対する直接的興味や欲求は低くても、社会的な意識と科学の社会的役割については結びつきがあるということがわかりました。

データの限界

最後に、何のために調査を行うのか、達成を確かめるには誰をどのように調べたらよいのか、どのようなデータに注目したらよいのかを十分に検討することが大切です。これまで紹介のあった質問紙調査のほかにも、事例研究やビッグデータのようなものからもデータをとることができます。一方で、存在しないデータこそが重要な場合もあります。

様々な調査・研究結果を示しながら、データの背景や扱い方、限界と科学技術コミュニケーションの実際について紹介してくださいました。なぜそういうことに至ったのか、背景を知る。そして解釈するための情報を複数の軸で持っていることがデータを使って考える時にとても大切になってきます。そのために私たちが意識すべきは背景や文化に対する理解、理論的フレームを身につけることです。そして、科学技術コミュニケーションを学ぶ身として研究者(情報の生産者)、マスコミ(情報の伝達者)、読者(情報の利用者)それぞれの立場にあっても、情報のバイアスを生み出し広めていることに注意をして適切にデータを扱い、便益を返せるように心がけていきたいと思いました。

川本先生、データを扱う上での心構えを教えてくださりありがとうございました。