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「研究者とサポーターをつなぐ 新たなチャンネル、クラウドファンディング」 1/23 柴藤亮介先生の講義レポート

2016.2.10

 2000年代にインターネットによる資金決済が普及したことに伴い、インターネット経由で不特定多数の人々が、自分の賛同するプロジェクトに出資や協力をする「クラウドファンディング」という手法が広がってきています。今回の授業では日本初の学術系クラウドファンディングacademistを運営するエデュケーショナル・デザイン株式会社の代表取締役 柴藤亮介さんを講師に迎え、学術系クラウドファンディングの実例とこれからの展望についてお話を伺いました。

間冬子(2015年度CoSTEP選科B)

学術系クラウドファンディングacademistとは

 現在、クラウドファンディングは資金調達の一つの方法として注目を集めており、日本国内でも多くのサイトが開設されています。academistは数多くあるクラウドファンディングサイトの中で、学術系のプロジェクトに特化している国内唯一のサイトです。学術系クラウドファンディングサイトはアメリカやオーストラリアでもいくつか運営はされていますが、世界的に見てもまだ例の少ない新しい分野で挑戦的な取り組みです。

 academistではこれまでに、22件のプロジェクトを支援しており、プロジェクトを支援したサポーター数は1,500人にのぼります。サポーターは支援した金額に応じて研究者からリターンを得ることが出来る仕組みとなっており、リターンはオリジナルグッズであったり、サイエンスカフェへの招待状であったりとプロジェクトによって様々です。このリターンが、Experiment(アメリカ)やPossible(オーストラリア)など他の学術系クラウドファンディングとは違ったacademistの特徴の一つであり、支援の獲得を増やしている一因であると柴藤先生は分析されています。

研究の「魅力」に投資する

 従来の一般的な資金調達とクラウドファンディングを通じた資金調達では、研究を支援するときに大切にするものが違います。一般的な研究資金は研究の「意義」に対してお金を出すことに対し、クラウドファンディングでは研究の「魅力」に対してお金を出します。そのため、資金を獲得するプロジェクトの特徴も少し異なっており、academistでは、すぐに世の中に役立つような応用研究ではなく、一般的に研究費の調達が難しいといわれている基礎研究の研究者が資金調達に挑戦することが多く、これまでに支援されているプロジェクトのほとんどを基礎研究が占めているそうです。

 academistでの最も大切な仕事は研究の魅力を的確に掴むことであると柴藤先生は言います。研究者自身が気付いていない一般の人にささるポイントを見つけ、魅力をうまく一般の方に伝えていくこと、それこそがacademistの価値であるといいます。

クラウドファンディングと科学技術コミュニケーション

 研究の「魅力」に対してお金を出す仕組みであるクラウドファンディングでは、共感を呼ぶアウトリーチ活動を行うことで、研究に必要な資金を募ることに直結するため、科学技術コミュニケーションが非常に重要な役割を果たします。柴藤先生はこれまで活動してきた中で、academistの価値は、資金を募ることよりもアウトリーチを行うことの方が大きいのではないかと感じていると言います。最近はacademistについて、“資金を募りながらアウトリーチ活動を行うことができるサイト”として研究者の方々に紹介をしているそうです。

 academistではいくつかの段階を踏む形で、アウトリーチ活動ができるような仕掛けがしてあり、それぞれの段階に科学技術コミュニケーションが大きく関わっています。一つ目は、テキストや画像、動画を用いてウェブ上で研究を紹介することによる「認知」です。二つ目はそれに対するフィードバックを直接サポーターからオンライン上で受け取ることにより研究者とサポーターの間に構築される「広くゆるいつながり」です。三つ目はリターンとして提供されるサイエンスカフェという「リアルなつながり」の場です。研究のサポーターという特定の内容に興味を持つ人が集まることで、より深い相互関係のつながりが構築されます。最後は、オンラインサロンなどを利用して研究を切り口とした様々な情報のやり取りを定期的に行い、「継続的なつながり」としていくことです。オンラインサロンの仕組みはacademistではまだ構築されていませんが、この一連の四つの流れをacademistで構築していきたいと柴藤先生は述べられました。

受講生の研究を説明してもらい、魅力を発見して発表するグループワークの様子

魅力的な研究者のプラットフォームを作る

 著名な中世の研究者、ガリレオはメディチ家(パトロン)の支援を得たことで、研究成果を共有する文化を築いたそうです。それ以前は、ガリレオだけでなく多くの研究者が自身の研究成果を盗まれることを恐れ、自らの発見を公開しませんでした。しかし、パトロンの存在によりガリレオの態度が変化し、成果論文として発表する文化が生まれました。

 柴藤先生は似たような流れを、インターネットを利用して現代で実現しようとしています。インターネットの普及により多くの人が集まれば、一人一人の貢献は小さくとも、全体で大きな支援になります。クラウドファンディングが根付けば、一般の人々がパトロンとなって研究を支援し、研究者が研究結果である論文だけではなく、研究アイデアやプロセスを公開するような時代が10~20年後に来る可能性があります。クラウドソーシングなどを利用した異分野のコラボレーションによる研究も今より進むでしょう。そのような流れを促進するような魅力的な研究者たちのプラットフォーム作りにacdemistというクラウドファンディングで貢献したいのだと今後のacademistのビジョンを語ってくださいました。

 クラウドファンディングというと資金調達という側面ばかりを意識しがちですが、柴藤先生のお話を伺い、他の役割も持った、研究者にとってよりよい環境を整えるための一つの手段であるということがわかりました。また、授業の中では科学技術コミュニケーターが各地で科学技術コミュニケーションを行うことにより、academistのような新しい流れをもっと生み出してゆけるだろうという指摘もありました。研究資金調達の多様化とともに科学技術コミュニケーションのあり方も少しずつ変化、多様化していくように感じた講義でした。

 柴藤先生、貴重な講義をどうもありがとうございました。