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「心のトーンをあげる環境づくり」(12/9)吉岡恭子先生の講義レポート

2018.1.10

越後谷 駿(2017年度 本科/学生)

今回は吉岡恭子先生(株式会社ARTCOCO代表取締役)をお招きしました。吉岡先生は、建築の中にアートを使って、公共空間を利用する方々の心をつないでいます。このような環境づくりは、アートに対して身近ではない方を対象とします。また、利用者や設計者など多様な方々との対話が必要であり、科学技術コミュニケーションと共通点があります。この講義では、医療施設を例にコミュニケーションの目的や環境づくりで大切にしていることについて話して下さいました。

アートを使って利用者の心のトーンをあげる

中東遠総合医療センターの例を見ていきます。まずは医療関係者、設計者といったそれぞれの立場で建物内の改善点など、自らの想いを共有します。コミュニケーションは、異なる想いを共有することが目的であり、異なる感覚や認識を合わせていく最強のツールだと言います。

コミュニケーションを通して共有されたアイディアから、小児病棟の入り口には大きな木の作品を取り入れることになりました。親に連れられた子供が、何もない真っ白な空間に入るのはとても怖いものです。この作品は、子供が入り口の大きな木を見て、少しでも楽しいと感じてもらいたい、という想いで設置されました。そして子供が描いた絵を掛けられたり、クリスマス用に飾りができたりと入院後も生活の楽しみとなります。

またエレベーターホールのような特徴のない迷いやすい場所にも、アートが取り入れられます。例えば「この作品の隣にはエレベーターがある」というように、利用者が感覚的に場所を認識してもらうことを目的としています。飾るだけではない、空間に役割を持たせるアートです。

明快でブレない提案

まだ実在しない企画を共有する際のコミュニケーションで最も大切なことは、提案する側が明快でブレないことです。そうすれば、聞き手も理解しやすくなり、他者を巻き込むことができます。そのためにアートコンセプトを決めます。新小山市民病院ではアートコンセプトを「ここでしかできないグリーンホスピタルをつくる」としました。そこで、緑に囲まれた病院の外にある、ここでしか採れない植物や葉の模様を患者支援センターの仕切りガラスと柱にデザインします。このおかげで、入りにくさを軽減することができました。

地域にあるものを生かした環境づくり

広島修道大学の環境づくりを見ていきましょう。広島県の産業シェアが大きい布地と、大学のスクールカラーである青色とをかけて、地元産の布地を使った藍染めのワークショップを大学で行いました。完成した布地を丸いレリーフに仕上げ、公共空間の壁に利用します。このように馴染みのあるものを生かし、公共空間に取り入れることで利用者の心をつなぎます。

今まで見てきた事例は、公共空間にアートを入れることが目的ではありません。アートは手段で、心のトーンをあげることが目的です。自分がやりたいことに対して、手段が目的となってしまいがちです。そのため、目的と手段の区別を明確にしておくことは重要だと吉岡先生は言います。

そしてこのようなアイディアは自分自身が見たこと、経験したこと、考えたことからしか生まれません。そのため、自分の中の引き出しを増やし、客観性を意識しながらひたすら考えるという、自分自身との対話も行ってほしいと講義を結びました。

吉岡先生、ありがとうございました。