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「『紙』宇宙を創造する手法」(2/17)前川淳先生講義レポート

2018.3.2

三浦 佳奈(2017年度 選科/学生)

今年度最後の講義は前川淳先生(折り紙作家)をお招きしました。前川先生は国立天文台の技術者という職業を持ちながら、折り紙作家・研究者として科学技術コミュニケーションを実践されています。

1980年に発表された「悪魔」という作品は、1枚の折り紙から作られているとは思えないほど悪魔の特徴が細かく表現されています。この作品は、紙を折る前に展開図から折り方を設計する手法から生まれており、折り紙界の金字塔的作品と言われています。 

二足のわらじ

前川先生は、国立天文台で計算機の技術者をしている一方、折り紙創作家・研究者としても活動されています。実は、天文台の計算機の仕事と折り紙はあまり関係がないのだそうです。ひとりの人間の中で、それぞれやりがいのあるもの。二つの仕事がリンクすることはあるが、無理に統合する必要はない。二つの仕事がどこでどのようにリンクするのわからないからこそ、面白いのだと前川先生は話します。

正方形じゃなくても折り紙!?〜メモ帳で作るメモ蝶〜

手を動かすことの楽しさを体験してほしいと、前川先生のご指導のもと、私たち受講生は講義の中で折り紙を体験しました。今回折ったのは、メモ用紙から作る蝶々、その名もずばり「メモ蝶」。1:√2(およそ1.41)の長方形の紙を使って作ります。1:√2の長方形というと特殊な長方形のように感じますが、A4用紙と同じ比率です。折り紙というと正方形の紙を切らずに折るのが一般的だと思われがちですが、正方形の折り紙が主流になったのは近代になってからだそうです。正方形が主流になったことには、様々な理由がありますが、ゲームのルールという側面が強いといいます。

メモ蝶を作る過程の中盤の工程9、等脚台形が出来上がります。この等脚台形を半分に折り込み、その下端を中心に向かって折り込みます。すると、中心に折り込んだ点がぴったりと合いました。ぴったり合うということは当たり前ではないと前川先生は話します。ぴったり合う理由は、工程9の等脚台形にありました。等脚台形の高さと同じ長さの辺を持つ正方形がはまるからです。

さらに折り進めていくといよいよメモ蝶が完成、歓声が上がります。工程の途中でぴったりと合う現象が見られたのは1:√2の紙を使ったからだと、あらためて図形の面白さを語ります。

折鶴からみた数学と歴史研究と折り紙のつながり

折り紙と数学と歴史研究、この三つのつながりについて折鶴を例にお話しされました。折り紙といえば「鶴」といえるくらい、私たち日本人の中では身近な折鶴。折鶴に関するもののコレクターでもある前川先生は、「どうして折鶴は日本に広まったのだろうか」と歴史的研究もされているそうです。寛政九年(1797年)、「秘伝千羽鶴折形」という様々に連結した折鶴を示した書籍が刊行されています。まさに数学的折り紙パズルの先駆といえるでしょう。

宇宙工学との関わり

折り紙と他分野の関わりは数学や歴史的研究にとどまりません。教育研究、服飾への応用、近ごろ工学や生物学の分野で話題に上がっている折り畳みに関する科学的研究、さらには宇宙工学とも関わりがあります。宇宙工学研究者の三浦公亮先生が考案されたミウラ折りは、紙の対角線の部分を引くだけで簡単に展開・収納できるという特徴を持っています。このミウラ折りは、1995年に打ち上げられた衛星の太陽光パネルに施され、宇宙実験が行われました。

前川先生は、最後に、折り紙を一種の窓として様々な分野とつながりたいと熱く語ってくださいました。そして折り紙作品の創作・研究・伝達において以下の三要素が相互に影響し合っているのだとまとめます。

・秩序だった構造がある(数学・科学)

・それを誰かに伝えようと整理することで新たな発見がある(教育・科学)

・造形が面白い(美術)

今回の講義で折り紙を通じて科学技術コミュニケーションを実践してくださった前川先生。メモ蝶の造形の美しさや可愛らしさだけでなく、数学の楽しさや折り紙を用いた教育の可能性を感じました。

私たち受講生の中には、職業を持ちながら科学技術コミュニケーション活動を行なっている方も多いように思います。そんな中、私は前川先生の講義を聞いて、自分の研究と科学技術コミュニケーション活動を無理にリンクさせようとしていたことに気がつきました。先生のおっしゃるように、どこでリンクするかわからないからこそ、リンクした時の面白さがあると思います。今後はもっと視野を広げ、それぞれの活動を充実させたいと思いました。

前川先生、ありがとうございました。