塚越優喜(2026年度選科B受講生)
モジュール1-2の講義では「科学技術コミュニケーション~未来智への理解と社会実装」と題し、毛利 衛先生(宇宙飛行士/日本科学未来館名誉館長/日本水大賞委員会委員長/CoSTEP客員教授)に講義をいただきました。

本講義は、「CoSTEPの授業をなにゆえに学ぶのか?」という問いから始まり、CoSTEPで学ぶ科学技術コミュニケーションを社会に実装する意義について、「Big Picture」「Think Ahead」「未来智」という3つの概念を軸に整理するものでした。



「Big Picture」と「Think ahead」
「Big Picture」と「Think ahead」は一対の概念であり、物事の全体像を捉え、その中で未来を見据えながら考え、行動するという考え方を指します。あるプロジェクトを成功させるためには、プロジェクト全体の目的や方向性を理解し、それと自身の役割や行動を一致させることが重要です。
この考え方を人類規模にまで拡張すると「人類の存続」が究極の「Big Picture」となり、「人類の存続のために一人ひとりが考え、行動すること」が「Think Ahead」に相当します。

人類は科学技術の発展によって急速な人口増加や社会の成長を実現してきました。しかしその一方で、環境問題をはじめとする様々な社会的な課題にも直面しており、地球上における人類の発展の限界も見え始めているのが現状です。また、現在も増加を続ける人口は、今後何らかの要因を契機とし、急激な減少へと転じる可能性も考えられます。このような未来に対して、私たちはどのように向き合い、どのように解決していくべきなのでしょうか。また人類の存続を実現するために、科学技術をどのように活用していくべきなのでしょうか。
この問いは、ポール・ゴーギャンの絵画「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」に描かれた根源的な問いとも通じるものがあります。この問いのうち、「我々はどこから来たのか」、「我々は何者か」という問いは、科学哲学をはじめとする様々な学問分野において古くから探求されてきました。一方で、「我々はどこへ行くのか」という問いは、未来の社会や人類の進むべき方向性を考えるうえで極めて重要な意味を持っています。人類はどのような未来を目指すのか、そしてその未来の実現に向けて科学技術はどのような役割を果たすのかを考えることが必要です。

これらの問いに答えるためには、社会課題を解決するような科学技術を開発するだけでは不十分であり、その技術を社会の中でどのように活用し、人々とどのように共有していくのかを考える必要があります。科学技術の活用と共有を進めるうえで、科学技術コミュニケーションは極めて重要な役割を果たすと考えられます。科学技術コミュニケーションを市民の文化として根付かせることは将来起こりうる様々な社会課題に備え、より望ましい未来を実現するために必要不可欠です。
ここで「未来智」という概念が重要になります。「未来智」とは、人間中心の考え方を超え、地球上の生命の維持と持続可能な社会の実現につながる知恵を指します。科学技術コミュニケーションを社会に実装することで、人の集団を維持するつながりである総合智(国、宗教、経済、科学、教育など)を「未来智」へと変革し、持続可能な社会の実現へとつなげることができると考えられます。また「未来智」を考えるうえで特に重要なのは、「生きる喜び」を根本に据えることです。科学技術を利便性や効率性の向上のために用いるのではなく、人々、さらには地球上の生命がより豊かに生きることを支えるために活用することが「未来智」の実現につながります。そのためには、科学技術と社会をつなげるだけでなく、異なる立場や価値観の人とのつながりを育む科学技術コミュニケーションの力が不可欠です。
これらを踏まえ、毛利先生は、CoSTEPで科学技術コミュニケーションについて学び、社会へと還元していくことは、「未来智」を考え実現していくうえで非常に重要であり、意義のある活動であると述べられていました。
