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あなたは、なぜ、つながれないのか ラポール身体知

2019.11.12

著者:髙石 宏輔
出版社:春秋社
刊行年月日:2015年5月10日
定価:1,600円(税別)


自分を、相手を、繊細に感じるコミュニケーションの世界

「人と接するということは、自分の内面を隠して、殻に閉じこもって、虚勢をどれだけ張れるかを競い合うゲームでしかないのだろうか」。著者は冒頭、読者にこう問いかける。著者の高石氏は現在心理カウンセラーとして独自に活動しているが、かつてはコミュニケーションが苦手だったと本書の中で語っている。高石氏は自身のコミュニケーションを見直すためにナンパを始めた異色の経歴の持ち主だ。本書ではコミュニケーションとの向き合い方そして人とつながることの可能性が、筆者の独白にも近い形で語られる。

例えば対人コミュニケーションとは、ただ言葉を交わすだけのやりとりではないと著者は言う。コミュニケーションは相手に対するうなずきや姿勢、どのような声をだすかといった小さな動作の積み重ねからできている。そしてそれらがコミュニケーションに大きく作用する。しかし、これらのうちの多くの動作は無意識で行われていることが多い。その結果、自分の動作を観察できず、当然相手のことも認識できないため、コミュニケーションのズレが発生してしまうというのだ。

ではどのように自分自身の観察を行えばよいのだろうか。高石氏はまず身体の動きを自覚することから自己の内面と対話を始めることを薦める。その力を養うためのいくつものエクササイズが紹介されているが、ここでは雲手について紹介しよう。これは腰の前に小さな雲があることを想像し、それを手ですくい、こぼさないようにしてゆっくりと円を描きながら顔の前に持っていく運動である。実際にやってみると、型にはまった機械的な動作になってしまい、ぎこちなく感じてしまう。なぜなら多くの場合、細部の緊張まで注意を払わず身体を動かしてしまっているからだ。このようなエクササイズを行うことで、無意識的な動作を減らすことができる。そして自分の身体に対する気づきが、自分の内面に対する気づきにつながり、そして相手との「同調」を形作る、と高石氏は指摘する。

高石氏が目指す「同調」とは、自身の緊張を取り除き、相手が考えていること、感じていることを可能な限り感じようとした結果、相手と同じ空気感をもてるラポール的なコミュニケーションを指す。そして、この同調にいたるために重要なのが、既述したような自覚しにくい身体がもつ動きと機能である「身体知」を自覚することだ。

この「ラポール」と「身体知」はタイトルにも記されており、本書のキーワードであることは間違いないものの、本文では一切登場しない。本書は高石氏の個人的な経験的語りが中心になっており、その手法や概念の背景についての解説はないが、「同調」やそのためのエクササイズであるミラーリングやペーシングは「NLP:Neuro-Linguistic Programing(神経言語プログラミング)」が軸になっているようだ。NLPとは、人間は五感により感じ取った経験をもとに、言語的および非言語的に記憶・行動するとした考えである。心理学や言語学を背景に1970年代に興り、現在ではセラピーやカウンセリングなどで実践されている。

NLPは実証主義にもとづく自然科学的研究としては未だ確実な知見は得られていない。そのため「どんな場合でも成り立つのか」「疑似科学だ」といった批判の声も少なくない。しかし、複雑な現象であるコミュニケーションを明らかにするためのアプローチは実証主義だけではない。また「対人関係」の悩みを抱える人は、学術的に厳密な解明を待っていることなどできない。そのため、一つの解決方法としてNLPが期待されていることは事実だ。ここに「コミュニケーション」と「科学」の簡単ではない関係を見出すことができるだろう。

私もまた対人関係に悩みをもつ一人である。うまくやり取りできなかった時は、人と関わることそのものに負の感情を抱いてしまうこともある。しかし、本書で身体の動き一つ一つにまで意識を配るコミュニケーションの緻密な世界があることを知った。人と接するということは内面を隠しあうゲームではなく、内面に向き合うことで相手と気持ちが通じ合い、交歓しあえるものなのだ。NLPをめぐる科学的な議論はありつつも、自分と相手を感じる努力をすることで開かれていくコミュニケーションの可能性を本書から感じることができるだろう。


関連図書

  • 『思想する「からだ」』竹内敏晴(晶文社 2001)

演出家である竹内氏が演技指導や、障害者療育に携わる中で感じた、コミュニケーションにおけるからだのありかた・主体性がつづられる。氏の思想は本書の中にある「本源的な感情とは、激烈に行動している<からだ>の中を満たしあふれているなにかを、外から心理的に名づけていうものだ」という言葉に代表されるだろう。

  • 『NLPコーチング』ロバート・ディルツ(VOICE 2006)

現在、NLPは健康や教育など多岐に渡る分野で応用されている。本書はその中でもクライアントの課題解決を行う広義のコーチングに焦点を置いており、NLPの視点から相手をどう理解するかを解説している。


鈴木 隆介(CoSTEP15期本科ライティング・編集実習)