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「共創型人材としての科学技術コミュニケーター」(11/13)西村勇哉先生の講義レポート

2019.11.28

岩野 知子(2019年度 本科/社会人)

モジュール6「多様な立場の理解」の2回目は、特定非営利活動法人ミラツクの西村 勇也 先生による講義です。「知らない人たちに知り合ってもらって、こういう話があるんだったらどうしたいか。ここに行きたいのであればどうしたいか、というのを一緒に考えるのが僕の仕事です」と西村先生。自己紹介と領域を超えた活動のお話から、今日のテーマ「共創型人材としての科学技術コミュニケーター」へと進みます。

人格的成長の観点から社会に興味を持ち、はじめたのは「対話」

もともと西村先生は心理学を学び、人格的成長についての研究をしているうちに、社会側をどう変えていけばより楽に健康な人格になっていくのかについて興味を持ったそうです。NPOを始めるにあたっての最初の問いかけは、「本来、人が持つ可能性を発揮できる社会はどうつくられるのか」というもの。そして、はじめたのは「対話」です。対話を支えるプロセスを扱ったNPOの初期の活動を経て、「情報」について関心を持つようになります。共創やオープンイノベーションという文脈においては、詳しくない人でも参加できるようにしなくてはいけない。そこで取り組んだのが、物事を知っている人とそうでない人の差を小さくするための、最小限の価値ある基盤となる知見を集約した「情報基盤」をつくること。さまざまな企業や団体からの依頼でプロジェクトを実施する中で、詳しくないけれど関心はあるという人が乗れるような台をつくっていったというのが、NPOのここ5年ぐらいの仕事だと話してくださいました。

未来を考えるためのもとになる情報をまとめる

NPOの活動を通して、未来を考えるための情報をまとめてみよう、ということでつくられたのが「未来予測情報」です。未来を考えるためには過去の歴史に詳しい方がいいと、様々なテーマごとに人類の歴史をまとめたりもしたそうです。ここで例示されたのが比叡山。最澄が比叡山を開いた結果、日本に6つの宗派が生まれ、時代ごとの社会の問いに応えていく。その源泉は比叡山に収蔵されている経典群です。そこからヒントを得て、「時代を超えて社会を支える、1000年続く基盤をつくる」というミッションを掲げた別会社を設立。ニュースではなく、世界を支えるような知見を扱うメディア事業にも取り組んでいるとのことでした。

共創型人材としての科学技術コミュニケーター

共創型人材とは、協力と共に新たな価値を生み出す人のこと。ヨーロッパでのオープンイノベーションについてのリサーチプロジェクトから、リビング・ラボ(テーマに基づいて地域やコミュニティで、市民やユーザーが主体性を持ちながら、サービスやプロダクトの開発を共創する開かれた“ラボ”)の実践者の特徴をまとめて集約した16個の資質に沿って話が進み、カオスやストレンジアトラクタの話題にまで発展。コミュニケーションのデザインにおいては再現性が必要ですが、そこで提示されたのが「対話に至るステップと4つの話し合い」。ここからはCoSTEP教員の西尾先生との対談形式のやり取りも加わりさらに話題が深められていきます。

分野を超えたつながりは、いま役に立つかは分からない、というのがすごく大事

普段使っているパソコンのキーボード配列や、人類が工夫を重ねてきた道具の進化の事例から、新しい文脈が異なる価値へのジャンプを生み出してきた様子が示されました。イノベーションのプロセスでの発展のポイントは、委ねることと、いまは役に立つか分からないということ。西村先生は理研の未来研究室で各分野の研究者に100年後の未来についてインタビューを続けていらっしゃいますが、「未来のことを考えるのに基礎研究の研究者ってその分野の一番遠くまで行ける。これはすごいなと」。目の前にあることから100年後を考えることはとても難しいため、未来に向けた挑戦を集めることが重要であり、大切な情報が大量にある中で的確な情報をつなぐ技術を持つ人もまた重要とのことでした。

講義の最後には、「科学・技術の探検者として、情報をあつめ、つなぎ、未来を実現する、という人たちが増えるといいなと思っています」と話されました。この言葉から、科学技術コミュニケーターとは何だろう?と自問を繰り返す受講生の多くが、自分なりの答えに近づくひとつの指針を得たのではないかと感じました。