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なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか

2019.12.13

著者:枝廣 淳子・小田 理一郎
出版社:東洋経済新報社
刊行年月日:2007年3月29日
定価:1600円(税別)


よかれと思ってやった行動が、逆効果を生み出してしまった経験を、皆さんお持ちではないでしょうか。また、目の前の問題を解決したと思っていても、別な問題が発生してしまい、さらに大きな問題に発展してしまったこともあるかもしれません。何か困難な問題が起こった時には、まず一つひとつ個別に解決策を考え行動します。ところが、世の中はとても複雑な要素が絡み合っているので、それでは表面的な問題のための対処はできても、その奥にある根本的な問題の解決には至らないことがよくあります。そこで、その絡み合う要素の構造そのものを俯瞰的にとらえ、課題解決を目指すアプローチとして注目を集めているのが「システム思考」です。本書は、そのシステム思考の基本的な考え方やその事例について学ぶ入門書として最適です。

システム思考における「システム」とは、多くの要素がモノ、エネルギー、情報の流れでつながり、相互に作用し合い、全体として特性を有する集合体のことです。システム思考は、目の前にある問題の周りの要素だけでなく、俯瞰して要素間のつながりにも着目します。身近な出来事の変化、あるいは、大きな規模の社会問題の変化であっても、変化を引き起こす構造や変化のプロセスには共通するパターンを見いだすことができます。著者の二人は、システム思考を日本に広めた第一人者であり、出版から10年以上経過した現在も精力的に普及活動を続けられています。その対象は企業の経営者やマネージャーの方、現場の問題解決に関わる企業やNPOの職員などに多岐にわたります。

本書は充実した目次を備えており、小見出しの数は144個に及びます。これは総ページ数270ページの約半数にあたり、システム思考の解説や事例がたくさん紹介されています。因果関係の様々な要素のつながりをシンプルに描く「ループ図」の書き方は、基礎から丁寧に解説がありますので、身近な共感できるトピックスと共に学びが深まります。事例は身近なビジネスシーンの話題から環境問題のようなグローバルな規模の話、そして科学技術とその課題についても触れられています。

またシステム思考の効用として、ものごとに対する視野を広げ、長期的・複眼的・戦略的なものの見方を身につけられることが挙げられています。その結果として、置かれている立場や状況、その人の考え方や価値観を可視化して歩み寄ることができるようになります。科学技術コミュニケーションにおいても、科学者の知見と一般市民の理解をつなぐコミュニケーション手段として、システム思考は非常に有用なものだと言えます。特に 「トランス・サイエンス」と呼ばれる、科学的に感じられるが科学だけでは解決できない問題に対するアプローチとして、一石を投じる効果的な手段になるでしょう。


関連図書

  • 『世界がもし100人の村だったら』池田香代子(マガジンハウス 2001年)

世界の現状をシンプルな100人の村の例えで表したのは、システム思考の世界的な第一人者であるドネラ・メドウスです。世界全体を俯瞰的にとらえてシステムを見いだしており、数字が伝えるインパクトには、読者に多くのことを気づかせる力があります。

  • 『思考の整理学』外山滋比古(ちくま文庫 1986年)

思考していることを抽象化すること、言語化することはシステム思考の前提となります。本書は類似性を見つけるアナロジー、相互関係がないように見えて実はつながりがあることを見いだすセレンディピティなど、情報を整理する思考を鍛えることができる良書です。

  • 『社会変革のためのシステム思考実践ガイド』デイヴィッド・ピーター・ストロー、小田 理一郎・監訳、中小路 佳代子・訳、井上 英之・日本語版まえがき(英治出版 2018年)

システム思考を応用し、あらゆる立場のステークホルダーの利害関係を調整してダイナミックに社会課題を解決していく「コレクティブ・インパクト」を実践するための実用書。それぞれの立場のプレイヤーが共通のアジェンダを策定し、社会的課題の解決に向けた相互理解を得ていくためのプロセスを学ぶことができます。


成田 健太郎(CoSTEP15期本科ライティング・編集実習)