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JJSC19 アドバイザーコメント

2016.8.25

アドバイザーの方々からお寄せいただいたコメントの中から,公開に同意頂いたものについて以下に掲載いたします。

奥本 素子 京都大学高等教育研究開発推進センター 特定准教授

【改善に関するご指摘】

・論考の内容に関して

今回、報告扱いの稿が多く、もう少し考察や分析が深ければ、論文レベルの論考になったのではないかという印象も持ちます。 科学コミュニケーション研究は実験、調査手法はある一定レベルの水準に達しており、そのため有益なデータが収集されていると考えます。しかしながら、本冊子に論文として採用される投稿が少ないということは、分析部分が今後の課題なのかと思いました。

【全体に関して】

・投稿者に関して

多様な所属の著者が投稿しており、なおかつ新規の投稿者も多いことから、本冊子が広くサイエンスコミュニケーションの実践・研究を共有する場になっていることが伺えます。

【個別論稿への感想】

  1. 「大雨対策への知識・意識向上を目的としたワークショップのデザインと実践」森玲奈ほか
    災害に対する意識に関する質問紙を用いてワークショップを評価する手法を発展させ、地域差以外の観点からも評価することも可能なのではないかと思いました。
  2. 「科学コミュニケーション入門としての大学公開講座の可能性 :「高校生のための金曜特別講座」参加者のセグメンテーション分析 :楽しく科学者を紹介する試みについて」加藤俊英;標葉靖子
    非関心層と関心層の値を見ると、両群の差もあるように思えるため、その点の考察も深めていただければと思いました。
  3. 「「かわいい」を取り入れた科学実験・工作のコミュニケーション効果」吉武裕美子ほか
    おなじかわいいもの実験でも、性別によって満足度等の結果に差があるものとないものがあり、その部分を考察すると男女による科学ワークショップの好みの特徴が伺えるのかと思いました。
  4. 「市民参加による生物モニタリングが参加者の学びと地域への関心に及ぼす影響 : チノービオトープフォレストにおける事例紹介」辻野昌広ほか
    本稿が前提として掲げている市民の能動性が環境への動機づけに繋がるという部分がより明らかになれば本実践の成果がより読者に伝わると考えました。
  5. 「東日本大震災後,科学コミュニケーターは何ができたのか」一方井祐子;横山広美
    少数のサンプルながらも、専門家の振り返りという貴重なデータが掲載されていると感じます。ワークショップ結果をキーワードをまとめるだけでなく、どうしてそう専門家が感じたのかというエピソードも交えた考察になっていれば、論文として採録できるテーマとデータだったのではないかと思います。
  6. 小特集:シンポジウム「「デュアルユース」と名のつくもの~科学技術の進展が抱える両義性を再考する~」小山田和仁; 杉山滋郎; 三上直之; 千葉紀和; 伊藤肇; 新田孝彦; 川本思心
    小特集に関しては、現代的かつ先駆的な科学コミュニケーションのテーマを扱っていて、当日出席がかなわなかった読者にとっても、シンポジウムの題名だけではピンと来なかった読者にとっても、有益な報告となっていると思われます。デュアルユースに関しては基礎知識の少ない読者のために、やはり川本先生の稿が示していただいた前提知識が各稿読み進める上では役に立つと思いました。なので、シンポジウムの並びと本稿の並びが同じであればよかったのに、と思いました。

(2016/7/19)

黒川 紘美 国立研究開発法人 科学技術振興機構 日本科学未来館

【改善に関するご指摘】

  1. 投稿者が大学教員や研究者に偏っている点
  2. “報告”および“ノート”のほとんどは理解増進・意識向上や教育的な学びを目的とした科学技術コミュニケーションの内容に留まっており、小特集の内容を除けば、多様性に欠ける印象がある。
  3. 大学教員などを除きプレイヤーの人間は実践をすることが第一で、論文のような形でまとめることは義務ではない。こういった類の執筆からは遠ざかり、個々のノウハウの蓄積に留まってしまう傾向にある

【個別論稿への感想】

  1. 「東日本大震災後,科学コミュニケーターは何ができたのか」一方井祐子; 横山広美
    上辺だけのわかりやすさは真に科学と社会をつなぐことにはならない。それを、初期の科学技術コミュニケーション振興政策が伝えてこなかったという何よりの証拠になってしまったのではないか。東日本大震災を経て、科学コミュニケーターの役割が再考されるようになったことは、不幸な出来事だったが非常に重要な転換だったかもしれない。社会における科学技術の役割を俯瞰的にとらえ、自らの研究や科学技術についてわかりやすく説明するスキルは、諸外国の事例を見ても、現代社会においては大学や大学院で身につけるべき基本的スキルになりつつある。職業的科学コミュニケーターが行う活動など、大学教育以外で行われる実践については、より幅広く本質的な活動が広がっていくことを期待したい。
  2. 小特集:シンポジウム「「デュアルユース」と名のつくもの~科学技術の進展が抱える両義性を再考する~」小山田和仁; 杉山滋郎; 三上直之; 千葉紀和; 伊藤肇; 新田孝彦; 川本思心
    日本の近隣はもとより、世界の安全保障環境が変化する中で、このように今後社会的に問題となりうる事象をとりあげ、議論を深める取り組みは非常に重要だと感じる。今後も期待するとともに、この議論を一度のシンポジウムだけにとどめず、また大学教員や関係者間内での議論にとどめることなく、社会の様々な層の人々が参画した議論へと広げていけるような取り組みとなることを望むし、自分も何らか関わっていけたらと思う。

(2016/8/8)

小出 重幸 日本科学技術ジャーナリスト会議 会長

【改善に関するご指摘】

  1. 編集体制や執筆要領について
    「コミュニケーション」領域に討論素材を提供する――ということが同誌の目的であるならば、従来型の「論文形式」にこだわらない、いくつかの報告の仕方、選択肢があってもよいと感じます。
  2. 全体に関して
    コミュニケーションの現場には、必ず人間と人間のぶつかる接面があります。そのなかで討論を繰り返し、より多くの人たちが受け容れやすい方向、合理的な解決の手がかりを示すことが、実務的な科学コミュニケーションの大切な役割だと思いますし、それをサポートするのが、実学としての「Science Communication」ではないかと思います。  その視点で振り返った場合、多くの「研究」、「調査」、「考察」が、プロジェクトの分析、アンケート調査、そしてイベント報告に傾きがちで、それらを前提として、具体的に何を仕掛けてゆけるのかという、コミュニケーションの現場での方向性が、見えにくい「論文」が多い印象を持ちました。 この背景は、筆者が、日本の「Authenticな科学コミュニケーション学」を納めておらず、枠の外にいるジャーナリストの視点を捨て切れていないからだと推察されます。一方で、社会からの関心、アクセスを考えると、もう少し実学的に間口の広い研究の試みも、社会から期待されているのではないかと、感じます。

【個別論稿への感想】

小特集:シンポジウム「「デュアルユース」と名のつくもの~科学技術の進展が抱える両義性を再考する~」小山田和仁; 杉山滋郎; 三上直之;千葉紀和; 伊藤肇; 新田孝彦; 川本思心
掲載内容、どれも興味深く読ませていただきましたが、特集の軍事科学と平和科学の接点「デュアルユース問題」には、学ぶことが多かったです。

科学のデュアルユースをめぐる問題は、すぐれて今日的な素材といえます。「Communication」を超えて、科学政策、科学哲学、National security、外交など、さまざまな領域をまたぐ課題であると同時に、科学界(Scientific community)としても、科学のオーナー(Tax payers)に、取り組みの方向性を示す必要があります。

科学をめぐる重要なテーマの多くは、こうした多領域の価値観を統合して、判断、メッセージの発信を求められるケースが多く、今回の取り組み(シンポジウム、討論、編集、報告)の努力を、高く評価します。

この問題をめぐる国内外の現状を概観する、小山田和仁・GRIPS専門職の報告や、日本での議論の経緯と、線引きの難しいデュアルユース問題に第三者監視機関の可能性などを紹介した、杉山滋郎・北大名誉教授、それに続くパネル討論など、極めて興味深く読み進めることができました。

この問題は1回のセッションで終わるものではなく、引きつづき、討論とコミュニケーションの場を提供する役割が、「科学コミュニケーション」界には託されているはずです。今回の機関誌は、次に繋げるプロジェクトにとっても、よい手引き書になると思います。

一方で、日本学術会議には、科学界を代表してこの問題への取り組みと価値観を示す責任があり、早い段階での社会へのメッセージ発信が求められています。こうした動きをサポートする役割も、今回の科学技術コミュニケーション誌にはあると感じました。

(2016/8/9)

三上 直之 北海道大学 高等教育推進機構 准教授

【掲載原稿の内容について】

実践に密着した、あるいは具体的な調査データを用いた、たいへん手堅い報告とノートが集まり、読みごたえがありました。その一方で、論考としてのまとまりが意識されすぎるゆえか、各実践事例や調査データが持つ豊かさをもっと開拓できるのではないかと感じられる部分もありました。下記のウェブサイトに掲載した合評会の報告記で、一部の記事について感想を述べていますので、そちらもご参照ください。 http://d.hatena.ne.jp/nmikami/20160803/1470217093

掲載原稿のレベルをさらに高めていくためには、査読のプロセスはもちろん大切ですが、より本質的には、発表された論考を対象とした批評や討論の機会を積極的に持つようにすることがいちばん重要だと思います。上記の合評会はそのためのささやかな取り組みですが、こうしたものを、即効性はなくてもたゆまず継続していくことが大切だと改めて感じています。

【掲載原稿のカテゴリー(論文、報告、ノート)について】

18号に引き続き今号でも、「論文」カテゴリーの記事が掲載されていないことが気になります。実践活動やノートに記された素材が持つ意味をいっそう深く掘り下げ、その本質を明らかにする論考も、この分野の発展には欠かせません。論文という枠が用意されているのは、そうした意図からかと思います。論文にふさわしい着想の源泉は、一つには、前項に述べたような継続的な吟味や切磋琢磨の中にあるはずです。その意味でも、本誌の記事をめぐる議論や交流の重要性を改めて確認したいと思います。

【掲載原稿の著者について(分布等)】

CoSTEP修了生や受講生が著者になっている記事が、私の気づいた範囲では、辻野さんたちの1本だけでした。本誌が全国的な学術誌としての地位を確立したことの表れと考えれば喜ばしいことですが、少し寂しい気もします。修了生や受講生にも、研究や実践の成果を積極的に本誌で発表していただきたいと思います。 投稿者の所属については、一度、その変遷を多角的に分析してみることで、この分野の来し方行く末を見通すヒントが得られるかもしれません。今号の場合、6本中4本に東京大学所属の著者が入っているのが印象的でした。

【個別論稿に関して】

私の研究室のウェブサイト(2016年8月3日付記事)で、本誌19号の合評会(第6回「JJSCを読む会」)の様子を報告しています。この合評会では次の3本の論考がとりあげられました。詳細は下記のページをご参照ください。 http://d.hatena.ne.jp/nmikami/20160803/1470217093

  1. 「科学コミュニケーション入門としての大学公開講座の可能性 :「高校生のための金曜特別講座」参加者のセグメンテーション分析 :楽しく科学者を紹介する試みについて」加藤俊英;標葉靖子
  2. 「市民参加による生物モニタリングが参加者の学びと地域への関心に及ぼす影響 : チノービオトープフォレストにおける事例紹介」辻野昌広ほか
  3. 「東日本大震災後,科学コミュニケーターは何ができたのか」一方井祐子;横山広美

(2016/8/3)

2016年8月25日