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フィールド科学を映像で表現する

2010.7.27

今回の講義は、NHKエンタープライズ自然・科学番組エグゼクティブ・プロデューサーの横須賀孝弘さんです。「生きもの地球紀行」や「ダーウィンが来た」といった自然番組を主に作ってこられました。またテレビの仕事とは別に、北米インディアンの研究もなさっていて、翻訳書や著作もあります。ディレクターであり研究者でもあるという個性的な方でした。

横須賀さんは、神戸出身。実家の近所に動物園があり、幼少の頃より、動物に親しんで過ごしたことから、自然番組の制作に興味をもったそうです。

はじめに、活字と映像の表現方法の違いについてのお話です。事実をありのままに文章化するのはそう難しくありません。しかし映像制作は、手間暇がかかります。事実に反しない限り、段取りや演出などで当時の状況を表現することも、時には必要になってきます。

続いて、実際の番組制作の流れについて。ディレクターとして一番大変なのは企画書作りです。ネタを見つけ、企画書を作り、プロデューサーをあの手この手で説得します。企画書はたったのA4一枚。そのわずかな紙面に、いかにこの企画が面白いか、言葉を尽くして詰め込みます。時には大風呂敷を広げて、企画への「LOVE」を、プロデューサーに対してアピールするのだそうです。

企画が通ると、番組構成とロケが始まります。横須賀さんは、とにかく「現場が面白い」と言います。映像になってお茶の間に届く段階では、その10分の1しか魅力が伝わらないそうです。つまりテレビで見ても面白いものは、現場ではその10倍エキサイティングなのです!うらやましい。

その後、横須賀さんがNHK札幌放送局にいた時に制作した「北海道スペシャル/ヒグマを追う〜アイヌの狩人に学ぶ森の知恵〜」という番組を見せていただきました。ヒグマの第一人者を通じて、クマ撃ち名人と、クマの生態を研究する北大の大学院生を紹介してもらったこと、ロケには合計25日間かかったことなどを伺いました。また研究者とNHKがコラボレーションして、番組の経費で飛行機を飛ばして研究に協力し、その結果ヒグマの行動範囲を推定できたのだそうです。

続いて、北米のヘラジカ(ムース)について特集した番組「地球ふしぎ大自然」の制作エピソード。ヘラジカのメスの鳴き声を研究者が真似て、オスをおびき寄せるシーンでは、映像ではすぐにオスが現れているかのように編集されていますが、実際は出現まで数日かかったそうです。野生生物相手の撮影で計画通りにいくことはまずありませんが、想像を超えた映像を自然からプレゼントされることもあります。実際、ヘラジカのオスが来た時には、研究者も大変驚いていたそうです。

ロケで撮影した膨大な映像を切ってつなぎ合わせるには、客観的な視点が必要であり、そのために番組の編集だけを担当するお仕事もあるそうです。企画や構成、ロケだけでなく、ナレーション台本を書くのもディレクターの仕事であり、ここではお茶の間へ自分の取材対象への熱意、すなわち「LOVE」が届くように考えます。ちなみにナレーションは小学5年生でもわかるのが基準だそうです。

映像メディアは、科学と市民をつなぐコミュニケーションツールですが、テレビ局ならではの技術や予算で、科学者の研究をステップアップさせるような番組作りもできるんだということを教えていただきました。またプロの水中カメラマン・尾崎幸司さんのように、学者も知らなかったような事実を映像として発表するなど、時に映像には、科学の発見に新境地をもたらす力があることを知りました。

内視鏡カメラ、小型カメラ、ハイスピードカメラ、超望遠レンズ、ハイビジョン一眼レフといった最新の機材が、フィールドでの科学に大きな可能性をもたらしています。また簡単な撮影機材やパソコンを使った映像編集など、アマチュアにもその世界は開かれるようになりました。今、我々はすごい時代にいるんだ、と強調されていたのが印象的でした。

最後に「番組制作に関わる文章はすべてラブレターである」という言葉から、横須賀さんの番組作りへの情熱がひしひしと伝わってくる、素晴らしい講義でした。

(本科・山口 章江)