著者: 尾関 周二
出版社: 岩波書店
刊行年月日: 2016年11月17日
定価: 520円(税別)
身近な所から環境について考えることの必要性
近年、SDGsやESG投資などグローバルな視点から環境問題解決への関心が高まっている。しかし、多くの人は「なぜ、環境を守る」必要があるのかといった背景についてあまり考えずに、漠然と環境問題と向き合っていると私は感じている。本書を通じて、「なぜ、環境を守るのか」という問いについて、様々な視点から考えるきっかけにしてほしい。そして、環境問題を解決する根本的な意義を1人でも多くの人と分かち合いたい。そこから、環境問題解決を目指して、自分自身の生き方や将来社会を考えていく一歩になればと考えている。
『「環境を守る」とはどういうことか』は、環境思想の入門書である。本書は、「なぜ、環境を守るのか」を考えるために必要な環境思想の考え方をいくつかの論点から具体例を交えて、初学者にも分かりやすく意識して書かれている。本書では、環境問題について身近な事例から考えることの必要性が書かれている。そこで、本書評では「人間と自然の公正・衡平化」という概念を紹介したい。この観点が環境について考えるための第一歩として重要だからである。
3章~5章では環境思想の考え方を様々な例を用いて分かりやすく説明している。ここでは「人間と自然の公正・衡平化」の具体例について紹介しよう。例として、カブトムシの売買から里山が破壊されていることについて述べられている。現在、カブトムシはホームセンターやペットショップで当たり前のように販売されている。さらに、海外から輸入されたものも同様に販売されている。これによって、カブトムシという自然物は商品としてみるようになった。自然物が商品として扱われることは、我々の生活や文化の中に深く浸透している。そのことに違和感を覚えていないことは、里山等の自然物が破壊され、人間と自然との関係に亀裂が入っていることの象徴である。「環境を守る」ことについて考える初めの一歩は日常のなかにあることを教えてくれている。
本書を読み進めていると、「原理・原則は理解できたが、具体的にどうしたらいいのか」と考えてしまうことがある。しかし、著者は本文中に「環境を守るためには人びとの人柄や性格の涵養をうまく活用することが重要である」と述べている。ここから、環境思想のアプローチを読者自身の個性を発揮して「環境を守るための具体的な行動」を自発的に行うことを期待しているのではないかと私は考えている。
本書を通じて、私の環境問題へのアプローチを再考するきっかけとなった。環境問題をグローバルに考え、発信することに注力していたが、そもそも根底にある「なぜ、環境を守るのか」といった問題意識について深く考えていなかったことに気付かされた。環境問題を考える際には「身近なもの・視点」から問い直して考えることが重要だということについて考えるきっかけを本書は与えてくれるだろう。
関連図書
- 『環境倫理学』 鬼頭秀一他編(東京大学出版会 2009 )
本書は、一貫して「環境保護か経済活動といった二項対立を解体し両立を目指す態度」 が大事であることを強く主張している。ここから、環境保護を行う際に対立する要因をどのようにして両立していくかが書かれている。
- 『新・環境倫理学のすすめ【増補新版】』 加藤尚武著(丸善出版 2020年)
近年は、環境問題に取り組まないと他社との競争に負けてしまう時代である。そんな時代背景もあって、多くの企業はSDGsに取り組んでいる。しかし、企業の多くは環境問題に取り組んでいることをアピールすることに注力しており、本来の目的を見失っている。このことに本書は警鐘を鳴らしている。このような現在の状況を批判的にとらえたうえで、本書は、そもそも守るべき「環境」とは何なのかについて考えるきっかけを与えてくれる。
福島 雅之(CoSTEP17期本科ライティング・編集実習)