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「新しい価値を共創する対話の場づくりについてグラフィックファシリテーションという技術〜」(1/22)出村沙代先生 講義レポート

2022.3.1

波田和人(2021年度 本科/学生)

 

「社会における実践」をテーマにしたモジュール6の第3回は、元CoSTEPスタッフで現在グラフィックファシリテーターとしてご活躍されている出村沙代(でむら・さよ)先生による講義でした。これまでの講義や演習などでもたびたび触れてきたグラフィックファシリテーションについて、実際はどのように使われているのかお話いただきました。

(出村沙代先生。元CoSTEPスタッフ。現在は株式会社たがやす取締役。グラフィックファシリテーションでさまざまな現場を支援されています。凸凹フューチャーセンターの設立者でもあり、北海道大学や京都精華大学で非常勤講師も務めています)
グラフィックファシリテーションとは?

絵や文字、図解、付箋紙、カードなどを使って「視覚化」を行い、話の内容をその場で確認したり、整理したりすることを総称してビジュアルプラクティスといいます。グラフィックファシリテーションはビジュアルプラクティスの一つであり、「対話の視覚化」によって場の活性化や相互理解のサポートをする技術です。グラフィックファシリテーションにおいて絵を描く技術は必要ですが、絵の上手さは必ずしも重要ではなく、誰でも実践することができると出村先生はいいます。

(グラフィックファシリテーションのイメージ。「対話の視覚化」によって場の活性化や相互理解をサポートします)
「視覚化」が生み出す様々なファシリテーション

グラフィックファシリテーションはさまざまな場で活用することができます。会議や研修、学会や講演会、ワークショップ、カウンセリング、コーチングなどはその例です。また、言語の壁を超える技術であることから、世界中で大きな注目を集めています。世界中でますます注目されている技術で、言語の壁を超えることも容易です。

この技術が多岐にわたって活用されている要因には、多様なメリットがあります。報告書、記録物などは文字で記録されることが多いですが、グラフィックを使うことで概略を瞬時に掴めるようになります。また、文字だけでは読み取れない感情や本音を引き出し、伝えることができるのも大きな魅力の一つです。この利点は患者と医師の間のコミュニケーションにも活用されています。議論で使われる場合には、記録として有用なだけでなく、議論そのものを活性化させる働きもあります。グラフィックには人に安心感を与えるという一面もあるからです。さらに、紙にペンで書くと消すことができないため、否定ではなく追加で意見を書き込む流れが生まれ、より建設的な議論につながるのだといいます。

(のと未来会議の様子。グラフィックファシリテーションによって活発な議論が行われたといいます)

実際にグラフィックファシリテーションを通して活発な議論が行われている事例として、石川県で2018年から行われている「のと未来会議』が紹介されました。少子高齢化が進み、人口も減少しつつある能登町で、未来の街づくりを話し合う場として開かれたものの、「対話することに何の意味があるのか?」という参加者も多く、緊張した空気で始まった会議だったといいます。しかし、参加者と共に「描く」ということを通して安心感が生まれ、そこから徐々に対話や議論も発展し、「描くことでリーダーシップを発揮できた」「話すことの手助けになった」という意見もあがったそうです。年齢や立場、肩書きを傍らにおいて議論することを可能とする、紙という媒体の力を感じるようなエピソードです。また、会議に参加できなかった人の考えるきっかけとなるように、参加者の絵はグラフィックによる記録として会議後も残されています。

実際に描いてみよう!

今回の講義では、2つのワークでグラフィックファシリテーションのための描き方を練習しました。

1つ目のワークは「スクイグルバード」です。一筆書きで絡まった線を適当に描き、そこに後から羽と足、目とクチバシをつけて鳥にします。それがどんな鳥なのか、自身の感情にこじつけて説明してみる、というワークです。このワークでは、意味を後付けする、こじつけるという力が必要です。頭の中を整理してからアウトプットするのではなく、とりあえず描いてみて後から考えることで何かに気付くことができたり、複数人で行うことで全体が見えるようになったりするのだといいます。

(スクイグルバード。アウトプットをきっかけとして対話するということを練習できます)
(群盲象を評す。人は何かをさまざまな側面から感じています。象のしっぽを触っている人はヒモやヘビのように感じ、足を触っている人は丸太のように感じるかもしれません。これらを持ち合わせることで象という全体の真実が見えるようになるといいます)

2つ目のワークは簡単な素材を組み合わせて人物を表現する練習です。丸や三角、星型などの基本図形を組み合わせると、さまざまな表現ができます。今回練習したのはその応用で、タムラカイ氏(富士通株式会社)が考案した「エモグラフィ」です。いくつかの決まったパターンのまゆや目、口のパターンを組み合わせるだけで、いろいろな表情や感情の人を表現することのできる、とても簡単で有用な手法でした。

聞き、選び、描く

グラフィックファシリテーションを初めて実践しようとする人は「描く」技術に注目しがちですが、必要な技術はこれだけではありません。アウトプットにはインプットが必要です。相手の話を聞き、それを自分の中で考える必要があります。「聞く」ことによってインプットを行う点は、「見て」それを写す板書と明らかに異なる重要なポイントです。また、インプットした情報をすべてアウトプットすることはできません。「描く」ことには時間がかかるため、情報の取捨選択が必要となります。そのためにはあらかじめ自分が何を知りたいか、どんなことを伝えたいかということを決めておくことが重要です。このように、グラフィックファシリテーションでは「聞いて」「選んで」「描く」という3つのスキルが必要なのだと出村先生はいいます。

(グラフィックファシリテーションでは、「受け取る力」「選択する力」「出力する力」が必要です)
さいごに

今回の講義を受けて最も印象に残ったのは、分かりやすくすることだけがグラフィックファシリテーションの持つ効果ではない、ということです。グラフィックにすることで安心感を与えたり、ペンで書いてもらうことで活発な議論を促したりする、まさにファシリテーションができるということに改めて気付かされました。そして今になって思うと、CoSTEPの実習では同じような工夫がいくつも施されていて、受講生の活発な議論の一助となっていました。出村先生が今すぐできるTipsとして挙げられた「全員にペンを配る」という方法もその一つです。今まで、「自分に絵を描く才能はないし、グラフィックを積極的に取り入れる必要はない」と考えていた私でも、「グラフィックファシリテーションをやりたい!」と強く思うようになった講義でした。学んだことを活かすためにも、まずは日頃からのアウトプットにグラフィックを混ぜていく習慣を身に着けようと思います。出村先生、ありがとうございました。