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「システム方法論で考える参加型対話手法」615田原敬一郎さんの講義レポート

2011.6.26

CoSTEPの講義は、6/15からモジュール3「情報の分析と計画」に入りました。このモジュールでは、「科学技術コミュニケーションの実践に必要となる様々な情報を収集・分析・評価し、意思決定を行う」ための基本的な考え方を学びます。

6/15の講義では、財団法人未来工学研究所 政策科学研究センター・研究員の田原敬一郎さんを講師にお招きし、「システム方法論で考える参加型対話手法−基礎と実践上の諸課題」と題してお話いただきました。

 

システムアプローチとは

講義では、まず参加型対話手法の日本での実践例が紹介され、それらにおける方法論上の課題として、問題状況が各々異なること、たとえ同じ問題を扱ったとしても国や地域、時代などによって環境が異なること、現実的な制約条件が多様であること、個々のケースに即して行った修正をどのように評価すればよいのか、様々な参加型対話手法の優劣を判断することがいかにして可能か、といった点が挙げられました。

 

次に、それらの課題を統合的に扱うための手法として、「システムアプローチ」が紹介されました。ここでいう「システム」とは、構成要素が互いに関連しあうことによって機能する、複雑な集合体であり、これを還元論ではなく、全体論としてとらえることをコンセプトとしています。「システムアプローチ」とは、このような考え方に基づいて様々な政策立案、合意形成、意思決定手法を統合的に扱う手法群のことです。

 

ハードシステムアプローチとソフトシステムアプローチ

システムアプローチには、ハードシステムアプローチとソフトシステムアプローチという2つのパラダイムがあります。ハードシステムアプローチにおいては、問題とその解決方法は明確に定義され、専門家の役割は、その解決のためのもっとも効率的な選択肢を見つける手法をシステマティックに追究することであると言われています。

それに対してソフトシステムアプローチにおいては、そもそも現実の、人間が関わる状況においては「何が問題か」が必ずしも明確ではないことに注目し、そういった状況においても機能する手法、ないしはメタ手法を探究するという考え方が採られています。

 

政策科学の分野においては、80年代以降、実証主義的認識論に立脚する伝統的な政策分析(=ハードシステムアプローチ)が、近代化以降に登場した「込み入った」政策問題の改善にほとんど役に立たないばかりではなく、それが民主主義を脅かす要因にさえなりうるとの自省的立場から、方法論の転換が図られてきました。その系譜において、ソフトシステムアプローチの一種である、参加型手法が提唱されてきたのです。

科学技術コミュニケーションと参加型手法

講義では、先日の講義を担当した三上直之さんも参画した、千葉県三番瀬のシナリオワークショップの事例などが紹介されました。また、今年度以降CoSTEPでも取り組む予定のDeliberative Pollingについても言及されました。

参加型手法は、民主的な政策形成へ規範的に貢献するのと同時に、道具的にも貢献するものとされています。しかし一方で、ステークホルダーや市民の政策決定への参加については、「理屈」の上ではその重要性が広く認められているにも関わらず、政策決定の現場で採用されにくいという指摘もなされています。

科学技術研究、産業、環境、医療等の諸政策の立案と実施過程における参加型対話手法の利用は、科学技術コミュニケーションにおいても極めて重要なテーマです。盛りだくさんの講義で、すぐに実感を持って理解するのは難しかったかもしれませんが、これから一年間の学びと実践の中で、今回の講義で提示された諸概念を、受講生のみなさんが血肉としていくことを期待しています。