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モジュール2-2「サイエンスライティング基礎」(7/2)吉田拓実先生 講義レポート

2022.8.2

佐藤このみ(2022本科/学生)

モジュール2の第2回目の講義にご登壇いただいたのは、現在北海道美幌町で営農のかたわらサイエンスライティングを実践されている吉田拓実先生です。
吉田先生は東京大学で農学の博士号を取得後、サイエンスコミュニケーションをベースに研究者によって設立された株式会社リバネスで8年間勤務。その後北海道美幌町に移り住んで就農を開始、パートナーの幸枝さんと一緒にさいこうファームと再考編集室を立ち上げました。現在は営農のかたわらフリーランスとしてサイエンス記事やローカル記事を執筆されています。

私たち受講生は、ライティング演習でサイエンスライティングの基礎と実践について学んできました。学んできたものの、それを仕事として実践するにはどうすればよいのか、具体的なイメージが掴めない人も多いのではないでしょうか。
今回の講義では、吉田先生がこれまで実践されてきた事例を通じて、サイエンスライティングを実践する上での手法やコミュニケーションのあり方について教えていただきました。

(1)サイエンスライティングとはなんぞや

10年以上この分野で活躍されてきた吉田先生の考えるサイエンスライティングとはズバリ、
飽きっぽい一般大衆専門用語に溢れた研究者との書くことを通じた橋渡し」です。
研究機関から提示された科学情報を、文章という形態を通じて一般大衆である読者に向けてわかりやすく伝えること。それがまさしく、ライティングという手法を用いたサイエンスコミュニケーションにおいて求められているのです。

この世の中は科学が大好きな人ばかりではありません。また、一般大衆といえども、その対象が中高生か、政府関係者、企業なのかで伝える中身や方法は変わります。それではどのようにすれば多様な受け手に科学をわかりやすく伝えることができるのでしょうか?
実際に経験を積んできた吉田先生から、サイエンスライティングに求められる具体的なスキルを教えていただきました。

(2)サイエンスライティングの手法

吉田先生は、サイエンスライティングは特別なスキルを要するのではなく、2つのスキルの組み合わせによって構成されていると言います。

基礎的なライティングスキル×科学を理解し伝えるスキル

①基礎的なライティングスキル
「どんな人に何のために伝えたいかをしっかり考えることで、自ずとその後の文章のかたちやサービスの展開が決まってくる」
サイエンスライティングでは、当然基礎的な書くスキルが求められるのですが、中でも大切なのが「対象」と「伝えたいこと」の明確化です。

タイトル 中高生向け科学雑誌
『someone』
ASEANの科学技術の今を伝える
『SCIENCE Portal ASEAN』
参照先 https://lne.st/business/publishing/someone/を参照のこと https://spap.jst.go.jp/asean/を参照のこと
対象 ”従来の科学雑誌を愛読していない中高生” ”政府や研究の場で働く忙しい人”
何を伝えるか ”高校生が理解できる程度” ”一般新聞紙の読者が理解できる程度”
デザインや構成 ”普通の女子高生でも持ち歩ける”デザイン ”正確かつ端的に”伝える

誰を対象にしているのか、何を伝えたいのか、そのためのデザインや構成はどのようにあるべきか、ということが示されました。サイエンスライティングにおいては、基本的なライティングスキルである対象と伝えたいことの明確化がまずもって重要なのです。

②科学を理解し伝えるスキル
そしてもうひとつ。科学を正確に理解し、誤解がないよう伝えるスキルがサイエンスライティングでは必須です。最低でも二次情報(プレスリリースなど)を理解して挑まなければなりません。かつ、そこで理解した情報を読み手の科学リテラシーに照らし合わせて翻訳しなければなりません。ここで重要になってくるのが現在(課題)、変化(研究内容)、新しい現在(ブレークスルー)の3要素です。

ただ研究成果を並べているだけでは、その研究分野から遠い受け手からすると、「なんでその研究をやってるの?」とつまずいてしまいます。
現在どのような課題があって、研究内容がどのような変化を与えてそれが新しい現在にどの部分で繋がっているのか。
その研究内容を、その前後の課題解決の文脈に位置付けることが、専門外の人に届く記事を書くために必要な工夫なのですね。
この点をきちんと押さえておかないと、せっかく記事にしても多くの人に届かなくなってしまいます。

中でも一番大事な要素は、現在(課題)の提示です。
一番最初に提示する現在(課題)にまず共感してもらうことが、先に読み進めてもらう上でとても重要なのです。

(3)サイエンスライティングのプロセス

「サイエンスブリッジニュース」とは、株式会社リバネスが、最新の科学を高頻度で中高生に向けて発信し、科学に興味のない生徒にも目に留めてもらう仕掛けをつくることを目的にして作成した科学壁新聞です。

対象伝えたいことを明確にしたら、次に情報を収集します。

<探す>
まずは1ヶ月以内にリリースされたサイエンスニュースを収集しましょう
✔️企業や研究所、大学機関のプレスリリース、論文、新聞や報道から信頼できるものを選びましょう

<理解する>
背景や用語、成果の意義を理解しましょう
✔️現在(課題)、変化(研究内容)、新しい現在(ブレークスルー)の3要素を意識する

<つくる>
魅力的な文章の構造をつくりましょう
✔️2つのポイント
①魅力・共感性のある導入
科学に興味のない生徒でも、まず一行は読んでみようと思える工夫をする
②発見の重要性・感動が伝わるストーリー
現在、変化、新しい現在の3段階で情報を整理する

(4)「科学をわかりやすく伝える」で仕事をつくる

こうして始まったサイエンスブリッジニュース。2000人の教員が登録し、1教員あたり100人の生徒と仮定して、推計20万人の生徒に届くまでに広がります。そして、この取り組みを継続するためには、ビジネスとして回る仕組みが必要です。

  • 継続的に書き続けられる体制づくり(人)
  • 継続的に時間を投資できる価値づくり(資金)

サイエンスブリッジニュースは広告モデルを採用。中学・高校の壁に週一回気軽に出せるという強みをもとに情報発信をしたい大学や企業が協力して運営しました。

多くのアクターを巻き込むプロジェクトとしてのサイエンスライティングでは、いかにして収益を上げる仕組みをつくるかも重要な視点なのですね。

さいごに

今回は、吉田先生が勤務されていた株式会社リバネスの実践例から、サイエンスライティングに必要なスキルとプロセス、そして科学をわかりやすく伝えることから仕事を生み出すことができる点を学びました。
誰に、どうやって伝えるのか、を意識していくことは、サイエンスライティングのみならず、科学技術コミュニケーション全般に共通していると言えます。そしてこのプロセスは、仕事を生み出す際にも有効だという点が大変興味深かったです。
吉田先生が今美幌町で実践されている「さいこうファーム」にも、ぜひ伺いたいと思います!吉田拓実先生、ありがとうございました。