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モジュール3-3「科学技術コミュニケーションのための情報と計画」(9/17)奥本素子先生 講義レポート

2022.11.4

古巻 史穂(2022年度選科A/学生)

CoSTEPの奥本素子先生に、科学技術コミュニケーションの活動の評価・分析方法と評価を踏まえた、より良い計画の作り方について学びました。

学校教育(義務教育)とインフォーマルラーニング(不定型学習)

今回の講義は義務教育にこれ以上負担をさせないという話から始まりました。科学教育を行う方から学校教育、特に若齢の義務教育期間に科学リテラシーを高めるような教育を行いたい、SNSなどでは義務教育期間に〇〇を教えるべきという声が上がっているのを見ることも多くあります。

しかし、現在の学校では、英語やプログラミングの必修化により授業時間数が増加しており、それに伴って学校教員の授業準備時間や新規課題の学習時間が増加していることが問題になっています。そのため、これ以上学校での学習を増やすことは現実的ではありません。学校教育ではなく、家庭内での学習や学校教育が終了した大人が生活の中で自発的に学んでいくインフォーマルラーニングが注目されています。

例としては、地域のお祭りや自主的な読書、博物館での学習、サイエンスカフェへの参加などが挙げられます。科学技術コミュニケーションもこれらのように生活の中で自然に行っていく形を模索されています。

インフォーマルラーニングの事例
効果的な教材の作り方

インフォーマルラーニングを含め、教育活動の効果や効率を上げ、学習者にとって魅力的なものにするためにはどのような学習デザインが必要かについてのお話がありました。一つの手法として、教育教材の設計、開発した後、実際に実施し、その評価を分析することで、教材の修正と改良を行っていくADDIEモデルが紹介されました。

その実践例として、研究者が研究費を得たときに行う研究不正防止教育が挙げられました。研究不正防止教育は通常、年1回程度、大学や研究機関などから学習を義務付けられます。日本では多くの場合、研究者が禁止事項をまとめた冊子やwebページなどを読んだ後、クイズを行うe-learning形式で行われます。この教育の目的は、研究者の研究不正防止ですが、先の形式はこの目的に即したものであるといえるでしょうか。ほとんどの人は、研究不正をやってはいけないことを知っている上、どのようなことが不正に当たるかを理解していると思います。そのため、先の形式では機械的にチェックをつける作業になりがちです。

これを改善した例として、米国保健福祉省(HHS)と研究公正局(ORI)によって開発された“THE LAB“というコンテンツが紹介されました()。このコンテンツは、様々な立場(研究室の主催、若手指導者、ポストドクター、博士号取得前の学生などさまざまな立場の人が研究不正につながるような行動を選択したくなるイベントが体感できるようになっており、研究不正を起こした結果どのようなペナルティが課されるかまで示されます。この教材は、テキスト形式の教材をADDIEモデルで分析すると、「研究不正がなぜ、どのように起こるのかを理解し、研究不正をしないための行動と避けようとする態度を育てたい」というニーズを明確にすることで、研究者に不正をした場合に起こる、怖いことを提示し、研究不正を起こさない態度を学習させる学習が効果的であると示されたため、より実践的な学習教材へと変化しました。

ADDIEモデルのニーズ分析

研究不正防止教材では、学習者や教材提供者の目的を明確にすることで効果的な学習教材が作られました。同じことは科学技術コミュニケーションにも当てはまります。科学技術コミュニケーションでは、科学リテラシーの向上や科学への興味醸成が目的となります。しかし、より一歩踏み込んでなぜ、その目的を達成する必要があるかまで考える必要があります。

現状分析の重要性

次の話題では、博物館来館者を増やすための取組が紹介されました。調査によると博物館に1年で何回も来る人もいれば、まったく訪れない人もいるように、訪問頻度は人によりばらつきがあり、訪問のきっかけは親や学校の校外学習で連れてきてもらうなどの育ちが影響していることが明らかになっていました。来館者を増やすためには、誰かに連れてきてもらった人が次に一人で来たい、来られると感じるような取り組みが重要であると考えられます。

また、特に校外学習では来館時間が短いことが多いため、この取り組みは短時間で行えることが理想です。紹介された話題では、絵画を見るときのポイント(大きく書かれているところを見る)を伝える手法を試みました。また、追加の検証で滞在時間や感想が増加したことが明らかになり、この手法が来館者数増加につながると考えられます。前に紹介したADDIEモデルと同様に今回の例でも初めに現状調査を行った後に、目的を明確にし、取組を行った後のフィードバックを検証し、効果の有無を調べることが重要であるといえます。

 

調べることの重要性

研究不正防止教材と博物館来館者増加の取組では、現状調査と実施後の検証において調べることの重要性が示されていました。科学技術コミュニケーションの課題を見つけるとき、学習の効果を検証する際に調べることが重要となるのは、取組を行う人自身が実態を正しく把握できているとは限らないからです。

3つ目の話題では、科学技術に対する意識調査の結果や本のデータをもとに、授業参加者が実際にどのような認識を持っており、それが実体とどの程度ずれているのかを投票形式で回答しながら、明らかにしていきました。この中では、特に科学技術を生み出す科学者と国民の間の認識のずれが多く紹介されていました。例えば、多くの科学者は、自身が携わる科学的技術に関する情報が国民に正しく伝わっていない、国民は誤った情報を信じやすい、自身の研究分野に関心がなく、問題も理解されないといった悲観的な考えを持っている場合が多く見られます。そのため、その認識をもとに、丁寧な説明をすることを心掛けたり、情報発信に力を入れたりします。

Zoomの投票機能を使ったクイズで授業は進んでいきますしかし、講義で紹介された政府が行っている科学技術に対する意識調査結果からは、国民の多くが科学技術に興味関心を持ち、科学技術政策に関与し、課題を理解したいと考えているという現状が明らかになりました。一方で科学技術政策のプロセスにおいて、国民が意思決定に参加したいと考えている反面参加できていない現状やプロセス上で専門家が意見を求めたいタイミングと国民が参画したいタイミングにずれがみられるという現状が明らかになりました。この調査により、科学者が事前に認識しているものとは異なる科学技術コミュニケーションで解決するべき課題が具体的に明らかになりました。

実際の調査データから意識を読み解いていきます

以上のことから、ある課題に対して、すでに現状を知っていると考えるのではなく、まず調べてみるという姿勢が重要であるということが示されました。

どのように課題解決を行うか。

最後に、調査により明らかになった課題の解決方法をどのように行うのかについての講義がありました。2つ目に紹介された研究不正防止教育では、学習者の意識を変えることで課題解決を行う方法が紹介されていました。この手法では、学習者が問題意識を持っていないと課題は解決されない場合があります。そのため、多くの人の行動を解決する必要がある場合は、意識を変えずに自発的に行動が変わるようなデザインを考える必要があります。フレーミングという相手の関心のある文脈で説明を行う手法があり、例としては持続可能な企業経営を行わせるために、地球温暖化の防止を目的にするのではなく、投資家からの投資を促すには持続可能な経営が必要という文脈で説明を行う方法があげられていました。この手法を行う上でも、事前調査が欠かせないと感じました。

まとめ

本講義では、効果的な科学技術コミュニケーション達成のためにはまず教育の対象と目的を明確に絞ること、それを達成するために、現状を調べ、目的達成に向けて不足している部分を明確にし、不足している部分を補うために、たくさんある手法の中でどれが最も適切か選択することが重要であると示されました。