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JJSC31 アドバイザーコメント

2022.12.31

JJSCでは外部のご意見を頂き、編集方針等を改善していくため、アドバイザー制度を設けています。第31号に掲載の論考についてアドバイザーから、コメントをいただきました。公開の許可を頂いたコメントについて公開いたします。

一方井祐子 金沢大学人間社会研究域人間科学系 准教授

掲載論文の内容、カテゴリーについて

第31号には5本のノート、1本の報告、1本の論文、小特集として1本の解説と3本の寄稿と多数の原稿が掲載されている。科学技術コミュニケーションが対象とする範囲や実践が多様であることをあらためて認識することができた。

湯沢・佐倉によるノートでは、国立博物館の「サイエンスコミュニケーター養成実践講座」修了生を対象にしたインタビューを行い、彼らが聴衆に対する配慮意識を明確にもつことを明らかにした。科学コミュニケーション養成に関する講座は大学、研究所、博物館など様々な場で開講されており、それらの効果を検討する上でも参考になるだろう。

仲野らによるノートでは、シンガポールのジュニアカレッジと奈良県立奈良高等学校との間で実施されたオンライン型SDGs関連企画提案ミニプロジェクトについて、その具体的な実施過程と効果を明らかにした。SDGs、オンライン、海外の学校との連携、そのどれもが多くの教育関係者が気になるテーマであることが予想できる。

曽宮らによるノートは、新型コロナワクチン啓発プロジェクト『こびナビ』の実践記録であり、SNSを中心に多数の反響があったことを報告している。試行錯誤の過程が具体的にまとめられており、パンデミック下の科学・医療コミュニケーションを考える上で貴重な記録であると感じた。

渡邉らによるノートでは、URAによる研究計画調書の作成支援という実践を通して「研究課題の核心をなす学術的『問い』」を明確にする過程が解説されている。自分の考えを相手に伝えることの難しさを理解するとともに、URAによる支援の重要性を認識する論考である。

高橋によるノートでは、数多く視聴された素粒子物理学の講義動画を対象に、動画作成の過程や意図、留意点が述べられている。動画を使った科学技術コミュニケーションの存在感が高まる一方で、その作成過程が言語化される機会は少ない。他の実践者にとって参考になるだろう。

松山による報告では、アイディア創出を促すツールとしての「秘密の研究道具箱カードゲーム」の実践とその成果を丁寧に分析している。特に、科学技術に関心の低い層にリーチする方法としての効果については、多くの研究者・実践者が興味をもつだろう。

西・藤垣による論文では、日本とイギリスの後期中等教育における教科書の比較を通し、特に分子生物学分野でELSIやRRIを学ぶきっかけがどのように提供されているかを分析している。日本の教科書ではELSIやRRIに関わる論点の言及はあるが、その主体が研究者や研究・技術の推進者に留まっているという著者の指摘は大変興味深い。

小特集「いたるところにつながり~自立と共創のためのDX革~」では、DXや共創をテーマに、人口8000人の北海道上川郡東川町での実践事例(定居による寄稿)やベルリンでの取り組み(竹邑による寄稿)を通して、科学技術と地域社会との密接なつながりを理解することができた。室井らによる寄稿に収録されたパネルディスカッションで言及されたまち町づくりにおける対話の評価基準やその難しさについては、科学技術コミュニケーションの研究者や実践者にとっても多いに関心のある点であろう。

以上の掲載原稿を拝読し、本誌が科学コミュニケーションの研究・実践知見をオープンに共有するプラットフォームであることの重要性を感じた。一方で、これまでに他のアドバイザーも指摘をしているが、「論文」や「報告」の掲載本数が少ないことがやや気になる。「ノート」はそれ自体が大変重要な実践報告であるが、今後はその価値をさらに高める工夫や、個々の実践事例を「報告」あるいは「論文」としての出版につなげる仕組みについても考える必要があるかもしれないと感じる。