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モジュール2-2「伝えるプレゼンテーション」(7/8)古澤正三先生先生講義レポート

2023.7.16

三上敦(2023年度対話の場の創造実習/社会人)

それでもプレゼンがうまくならない理由。

初めてつきあった彼女に、初めて贈ったプレゼントは何だったのか、全く思い出すことができない。奥さんとつきあっていたころはどうだったろう。初めてのプレゼントは何を贈ったのだろうかと考えてみるのだが、やっぱり思い出せない。何を贈ったのか思い出せないので、何を考えてプレゼントを選んだのかも分からない。
そうか、こんなことだから僕は、いつまでたってもプレゼンがちっともうまくならないのだ。講義を受けながら、そんなことを考える。
7月8日。土曜日。科学技術コミュニケーターとして必要な、様々な表現とコミュニケーションの手法について学ぶ「モジュール2」の2回目の講義は、古澤正三・池⽥貴⼦両先生による「伝えるプレゼンテーション」だ。

講義の冒頭で「プレゼンテーション」の語源は「プレゼント」だと知り、なんだ、そうか、そういうことだったのかと、難しめの方程式が解けたようなすがすがしい気分になる。と同時に、なぜうまくプレゼンができないのか、その理由も分かったような気がする。想像力が欠けていたんですね、きっと。

プレゼントと聞くと、服とかアクセサリーとかお菓子とか、つい「モノ」を想像してしまいがちだが、贈りたいものは「モノ」ではなく「思い」のはずだ。どれだけ相手を大切に思っているか、どれだけ相手に感謝しているか。プレゼントはその「思い」を「モノ」に託して贈るのだが、ポイントはただ「モノ」を贈れば「思い」が通じるのかというと、決してそうではないということ。「思い」を効果的に伝えるには伝えるための方法があるはずだ。手紙を添えるとか、サプライズを演出するとか、何も言わずただ相手を見つめてそっとプレゼントを差し出すとか。伝え方はいろいろある。だとしたら、どの方法が最善策なのかを知るためにはどうすればいいのか。講義「伝えるプレゼンテーション」では、その答えを「伝える相手に対する想像力を働かせる」ことなのだと強調する。

「来週、プレゼンをしなければならない。伝えたいことはある。効果的に伝えるためにはどうすればいいのか」古澤先生は、まずメインメッセージが何なのかを確認せよと言う。10分で話すべき内容を1分に要約した時、それでも話したいことこそが本当に伝えたいこと、つまりメインメッセージなのだと。この考え方は池田先生がデザインについて語った「ノイズをカットする」という考え方にも通じる。部屋が汚れていれば、部屋の中に大切なものがあっても分からない。余計なものを捨てていけば、大切なものが際立って見えてくる。理解してほしいという気持ちが先走ると、ついつい説明過多になることが多いが、それは逆効果。いかにそぎ落とすかだ。黒澤明の映画も宮崎駿や北野武の映画も余計な説明は一切なし。それでも観る者には伝わってくる。池田先生も巨匠たちと同じことを言っている。しかも太っ腹な池田先生はスライドを作成するときのノイズカットの方法まで教えてくれる。ポイントは①しゃべらないことは書かない②話す内容に合ったフォントを選ぶ③情報は要素ごとにそろえる④改行の位置を考えて読みやすくする、の4点。なるほど。これならすぐにでも実践できる。さすがは巨匠。やってみます。

さて、メインメッセージが確認できたら、次はどう伝えていくかだ。ストーリーづくりや話の構造化など、考えるべきことはいろいろあるが、ポイントはやはり「伝える相手に対する想像力を働かせる」こと。例えば、TPOを考えることも大切なポイントだ。池田先生はデザインのTPOについて話をしていたが、その内容はデザイン以外のことにも当てはまる。池田先生が紹介してくれたWHOが配布している眠り病のマガジンの例は、なぜTPOを考えなければならないのかを教えてくれる。そのマガジンは漫画仕立てのストーリーもので、これなら子供たちにも伝わるだろうと思いきや、識字率の低い国では全く役に立たない。難しいことを分かりやすく伝えようとしたのだろうが、「伝える相手に対する想像力を働かせる」ことが抜けていた。残念。パンデミック対策もこんな感じだったのだろうかと、WHOに対する想像力を働かせてみる。テドロス事務局長の顔しか浮かばないけれど。

TPOについて池田先生はこんなことも言っていた。科学技術コミュニケーションにおいては、専門性が高まるほど正確さが求められ、一般化していくほど親しみやすさが求められると。なるほど確かにそうだ。そして、この正確さと親しみやすさはトレードオフになりがちであるとも。うん、うん、確かにそうだ。しかし、巨匠は言う。「科学技術コミュニケーターたるもの正確さと親しみやすさの両立を目指さないでどうする」と。さすがは巨匠。いいことをおっしゃる。志が違う。みんな、頑張ろうね。

というわけで長々と書いてしまったが、最後にひとつだけ。今回の講義では、何度も繰り返し相手を想像するということが強調されていた。ただし、相手を想像するということは、相手の顔色をうかがうこということではないはずだ。もちろん相手に媚びることでもない。「伝える相手に対する想像力を働かせる」ということは、たぶん、相手をこちらに引き込んで、こちらが用意したプレゼントを受け入れてもらうための戦略だ。巨匠・池田先生が「デザインは戦略だ」と言っていた。発信者の⽬的を達成するための戦略だ。だから「必然性があり、なんとなくカッコイイではいけない。『何を』『誰に』 伝えたいかによって、ふさわしい表現法を吟味する必要がある」と。デザインだけではない。例えばイベントのタイトルもビジュアルも会場も開催時間も、もちろん企画内容も、すべてなんとなくではいけない。必然性があるはずだ。これは科学技術コミュニケーションにおけるすべての活動に通じることなのだろう。

そう考えると講義「伝えるプレゼンテーション」の内容は、様々な場面に応用が効きそうな気がしてくる。なので、さっそく誕生日が近い奥さんへのプレゼントに応用してみることにする。大切なことは奥さんに対する想像力を働かせること・・・・・・・・・・・・・・・なのだが・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?・・・・・・・・・・・・・どうしてだろう?・・・・・・・・・・・おかしいぞ??・・・・・・・・・・・・・何も浮かばない。テドロス事務局長の顔も浮かばない。教わったことが、まるで身についていない。こんなことだから僕は、いつまでたってもプレゼンがちっともうまくならないのだ。