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モジュール4-2「サイエンスを想像するアートと、社会を創造するジャーナリズム間にあるもの」(10/21)森旭彦先生講義レポート

2023.12.12

大西 祐輝(2023年度選科C/学生)

We will be “in-between”

サイエンス、アート、ジャーナリズム。この講義を構成する3つのキーワードです。この3つの間には、果たして何があるのでしょうか?雑誌「WIRED」のオフィシャル・コントリビューティング・ライターであり、日本の学術界との連携にも取り組んでいる森先生は、これら3つに共通点があると言います。それはいったい何なのでしょう。森先生と一緒に探しに行きましょう。

サイエンスとアートの間:取材で見つけた人間と科学技術の融合

森先生にとって印象的だった取材が2つあります。1つ目の取材先は、スイス連邦工科大学チューリッヒ校によって2016年に開催されたスポーツ大会CYBATHLON(サイバスロン)。CYBATHLONで競うのは身体に障がいを持った人たちです。彼らは、外骨格やロボット義肢、脳信号を計測するブレイン・マシン・インターフェースなどを駆使して、様々な競技に挑みます。科学技術の力を得て超人的なパフォーマンスを魅せる会場では、競技者が障がいを乗り越える感動だけでなく、人間と人工物が融合することへの、人間としての喜びに満ちていたと言います。

2つ目の取材先は、2017年にオーストリアで開催されたメディアアートの祭典Ars Electronica(アルス・エレクトロニカ)です。Ars Electronicaでは、メディアアート、すなわちサイエンスやテクノロジーが積極的に取り入れられた芸術作品と触れ合うために、世界中から多くの人々が集まります。会場で森先生は、出展しているアーティストを取材するにつれて、メディアアートにおいてサイエンスやテクノロジーがただ作品で使われているのではないということに気付きました。サイエンスやテクノロジーは作品と融合し、作品自体も進化していく、相乗効果のようなものを見出したそうです。

サイエンスとジャーナリズムの間:パンデミックにおけるジャーナリズムの在り方

その後ロンドン芸術大学の大学院に進学した森先生を、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが襲います。やむなく帰国した森先生は、修士論文のテーマとして、このパンデミックにおけるジャーナリズムを扱うことにしました。世界各国の科学ジャーナリストに取材を行い、彼らのパンデミックに関する情報発信戦略を分析することで、現在のメディアが持つ様々な問題を検証できるのではないかと考えたのです。

森先生が取材の中で出会った記者のお話を、いくつかここで紹介しましょう。BBCの記者Richard Fisher氏は、英オックスフォード大学のワクチンの治験に自ら参加し、その体験を記事にしました1。パンデミックで不確かな情報が多く飛び交う中、彼は体験を基に科学的事実を語ることで、説得力と信憑性を得る戦略を取りました。また、WIRED誌の記者Roxanne Khamsi氏は、パンデミックに対する楽観的な考えを抑制するために、実際の病院の中の様子をそのまま伝えるべきであると、警鐘を鳴らしました2。患者のプライバシーを守りつつ、いま現実に起きていることを包み隠さず伝える報道こそが、信憑性を高めるために必要だと主張しています。まさしく、百聞は一見に如かずというわけです。このように、森先生が取材の中で出会った記者たちは、自分たちのやり方で、サイエンスと社会をうまく繋げるジャーナリズムの在り方を探っていた、と言います。

(森先生が論文執筆の際、出会った記者たちのお話)
「新しいものをつくる」ということ

ここまで、森先生の経験を基に、サイエンスとアートの境界、サイエンスとジャーナリズムの境界に目を向けてきました。この旅路の中で森先生が見つけた、3つのキーワードが持つ共通点は、「新しいものをつくる」ということです。サイエンスにおいて論文を出すことと、アートにおける作品の制作、ジャーナリズムにおける報道は、同じプロセスを有していると言います。すなわち、いずれも問いや課題といった目標があって、そのために調査や分析を行い、方法論を確立して、結果を出す、という一連の探求のプロセスが共通しているのです。
そして違いがあるとすれば、それは「新しいものをつくる」ことで探求する対象であると、森先生は続けます。サイエンスが可能性を探求するのに対して、アートは人間性の探求し、ジャーナリズムは社会性を探求するのだと言います。この理論によれば、サイエンスとアート、ジャーナリズムには本質的な境界はないのかもしれません。境界に立つ人々は、新しいものをつくる際に、可能性と人間性、そして社会性のそれぞれに、どれだけ重きをおくのかを決める必要があります。

おわりに

最後に森先生は、フランスの美術家であるマルセル・デュシャンの言葉を引用して講義を終えます。曰く、「わたしはアートってものを信じない。アーティストってものを信じています。」論文や作品、報道と形は様々であっても、重要なことは「つくる人」の中にあるというメッセージです。
森先生は、サイエンスとアート、ジャーナリズムの間に立つ自らを、I am always “in-between”と表現しました。科学技術コミュニケーションを志す私たちCoSTEPの受講生も、いつか近いうちに、近い場所へ立つことになるのでしょう。あるいはもう既に、立っているのかもしれません。

(本講義レポートのタイトルとしても用いた“in-between”)
(森先生ありがとうございました。授業の最後には各々がAIをイメージしたポーズで記念撮影を行いました)

注釈
1. Coronavirus: What I learnt in Oxford’s vaccine trial
原文 https://www.bbc.com/future/article/20200721-coronavirus-vaccine-trial-what-its-like-to-participate
和訳 https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-53563049
2. This Pandemic Must Be Seen
https://www.wired.com/story/this-pandemic-must-be-seen/