6月に入りやっと夏らしくなってきました。CoSTEPの授業も本格的になってきた6月1日、隈本邦彦先生(江戸川大学メディアコミュニケーション学部教授) の講義が行われました。隈本先生は、元NHKの記者で、2005年にCoSTEPの教育プログラムを立ち上げたスタッフのお一人です。
科学と社会の関係
かつては、科学にかかわる問題は知識のある専門家が判断すれば良いとされていました。さらに、市民は科学技術に対して一種の憧れ・希望を抱いていたのも事実です。原子力のように、国家の基盤に関わるような巨大な科学技術が現れましたが、科学者ですらコントロールが困難な状況に陥っています。また、スマートフォンのような最先端の技術が日常生活で当たり前のように使われています。そのような社会背景のもと、科学技術をどう活用していけばよいか、専門家だけでなく市民も一緒に考えていこうという動きが始まりました。
科学ジャーナリズムの役割
あらゆる問題に対して、時間と労力をかけて詳細な情報を集めて判断(中心的ルート処理)することは不可能であり、人は他人の意見を参考にして直感的な判断(周辺的ルート処理)をしようとします。メディアは市民が周辺的ルート処理を行う上で重要な役割を果たしており、メディアの一つである科学ジャーナリズムは市民の科学的価値判断の形成に大きく影響していると言えます。
双方向コミュニケーション促進のためにできること
トランスサイエンス問題を解決するためには、市民が科学を理解するだけでなく、科学者も社会を理解することが必要です。このような双方向コミュニケーションを促す役割を果たすのが、科学コミュニティと、科学者と市民の仲立ちをするコミュニケーターですが、現状では、体系的な科学教育を受けずに現場に送り込まれる科学記者か、大学など科学コミュニティに雇用されている科学技術コミュニケーターがその役目を担っています。統計的に不正確だったり、因果関係が曖昧だったり、誤った情報を見抜くことができない科学記者は、科学技術コミュニケーターとしての役割を果たしているとはいえません。また、科学コミュニティで働くコミュニケーターは、仕事を続けるために科学者寄りの発信をしなくてはなりません。このような状況を少しでも改善するために、基礎的な科学知識とジャーナリスティックなセンスを身につけた人材教育が必要です。そして、様々な現場から科学報道に目を光らせ、ごまかしやインチキのないフェアな論争ができる社会をつくりましょう、と隈本先生は呼びかけました。
社会における科学技術コミュニケーターの立ち位置にについて考えが深まる講義でした。隈本先生、ありがとうございました。
本間真佐人(2013年度本科・北海道大学理学院修士1年)