大人の学び、社会の中での学び、実践的な学び、職場での学び、学びとコミュニティー、といったテーマについて、理論的な枠組みを踏まえて理解するための基本的な考え方について、長岡健先生にご講義頂きました。
ワークプレイス・ラーニング
「学習」という概念を「知識・スキルの習得」から「パフォーマンスの向上」へと捉え直す、パラダイム・シフトが生じています。これを別の言葉で言うと、「仕事の中で生じる行動変化や成長を通じた、個人・組織のパフォーマンスの向上の実現」つまり、ワークプレイス・ラーニングが重要である、ということになります。
従来の学習モデルの限界
大人が学ぶ際には、「知識をどのように現場で実践するか」が見えない状況で学習を強いると、ストレスが生じます。また、学校で学ぶ知識の習得と実社会の現場で実践する知識の応用は乖離したものとなっていることが少なくありません。大人の学びのほとんどの分野においてこのような状況が見られ、これは、従来の学習モデルの限界を示しています。
熟達化
熟達化とは、ある領域での長期経験に基づいて、まとまりある知識・技術を習得し、有能さを獲得していくプロセスを指しています。熟達者は、定型的熟達者と適応的熟達者の2類型に分類されます。今日のビジネスの現場でより重要な役割を果たすのは後者になります。この熟達者は、未知の事態へ対応ができ、「体系的知識に固執しない」「問題の把握に多くの時間を割くことができる」「行為の中で即興的に対応ができる」といった能力を持った人物です。
経験学習
学習(成長)とは、実践者が、様々な場面や機会を通じて、自分で知識を構築し、統合していくという側面があります。これを「経験学習モデル」とよびます。このモデルにおいて学習者は、失敗など多様な経験をし、その後経験から一歩離れて省察を行います。さらに、省察から自分の理論を作り出す「概念化」を経て、また実践を通じて経験を重ねていきます。この一連の流れの中で、徐々に「即興」を身につけていきます。
「大人の学び」の課題
ワーププレース・ラーニングは、熟達化を促進するための経験学習的活動ですが、全ての職場においてこのような活動が機能しているわけではありません。熟達化には、10年の経験を要すると言われています。さらに、学習者を取り囲む環境の「ルール」が変化しない、という前提が必要となります。熟達化が深まるほど、変化への対応が困難になる傾向にあるといわれています。そこで、学習棄却(unlearning)を行ったり、越境活動(boundary-crossing)で他者との関わったりする中で、熟練の限界を越えることが求められてくるのです。
長岡先生の講義内容は、私にとってCoSTEPで学ぶ意義を改めて確認できるものでした。長岡先生、ありがとうございました!
林 えりか(2013年度選科演習B・北海道大学医学研究科博士課程2年)