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水族館の通になる年間3千万人を魅了する楽園の

2011.3.23

著者:中村 元 著

出版社:20050500

刊行年月:2005年5月

定価:750円


 最後に水族館に行ったのはいつですか?

 

 

 そういえばしばらく行ってないなあと思った方は、ぜひ本書を手にとってみてください。水族館の通になる、といっても、何も小難しい専門知識が並べられているわけではありません。アシカトレーナーを経て、新・鳥羽水族館のプロデュースや新江ノ島水族館の監修とプロモーションに携わった中村氏により、Q&A形式の、子供でも容易に読み進められるような構成で水族館の数々の謎が語られます。

 

 

 この狭い国土に、平均すると水族館は1都道府県に2館ある計算になるそうです。そんな水族館大国日本を支えているのは、技術大国日本のその技術にほかなりません。例えば、水槽に使われているアクリルガラスは、重さがガラスの半分で強度はガラスの15倍だそうです。このアクリルガラスの出現が、巨大で透明感のある窓を持つ水槽やアーチを描くトンネル型の水槽などのさまざまな水槽を生み出し、水族館の展示方法を大きく変えたといってもよいでしょう。ギネスブックには高さ8.2メートル、幅22.5メートル、厚さ60センチの一枚板のアクリルガラスが登録されていて、加工技術の進歩により、重ねてもつなぎ合わせても、ほとんどつなぎ目が分からないようになっているそうです。このアクリルガラス、なんと世界の水族館の70%以上を、四国のあるメーカーが納めているとのことです。こんな話が、Q:「水槽の窓ガラスが割れることはないの?」なんていう、いかにも子供が発しそうな、あどけない質問に対する答えとして示されているものだから、そのギャップからくるインパクトは大きく、思わず「へええ」と唸ってしまいます。このほかにも、取水装置やろ過装置、造波装置に擬岩作成など、水族館を支える様々な科学技術にも話は及び、何気なく見て回っていた水族館が、こんなにも色々な分野の科学技術に支えられていたことに、素直に驚くばかりです。

 

 

 また、Q:「動物たちはどうやって水族館に来るの?」はとりわけ興味深いです。陸路、海路あるいは空路と、様々な方法で、動物たちは水族館にやってきます。体温を上げず、かつ呼吸を確保して安全に水族館まで運ぶために用いられる方法はダイナミックかつ繊細なもので、水族館職員の工夫や苦労話には、「おおー」と、ある種の感動すら覚えてしまいます。だいたい、イルカ用の担架があるなんて、全然知りませんでした!地球の裏側、南米チリはブエノスアレスから、11頭のイロワケイルカを空路で丸2日かけて運んだエピソードは特に印象的です。こんな話を読むと、次に水族館に行った時、こいつもあんな風に大変な思いをしてやってきたのかなと、またひとつ違った目で魚たちを鑑賞できそうです。 文字で読むバックヤードツアーとして、是非この本をお勧めします。

 

 

 水槽の前で魚たちを眺めるときのちょっとした浮遊感であるとか、イルカショーにわくわくした気持ちとか、そんな楽しい気分を思い出させてくれると同時に、新鮮な驚きと発見に満ちた、実に「深い」一冊といえましょう。

 

 

 本はともかく、今度の週末にでも久しぶりに水族館に行ってみようか、と思った方、いえいえ、ここはぜひとも、この本を読んでからにしてください。この本をネタにちょっとしたうんちくを披露すれば、「へー、よく知ってるね、すごーい。」と、あなたの株が上がること間違いなしです。

 

 

稲留 由美(2010年度CoSTEP選科生、ニューヨーク)