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人が死なない防災

2013.3.7

著者:片田敏孝 著

出版社:20120300

刊行年月:2012年3月

定価:760円


 二万人近くの死者・行方不明者を出した東日本大震災。地震の規模を示すマグニチュードが9.0で、国内では観測史上最大のものだった。また、海溝型地震であったため、地震の発生と同時に海水が急にもち上げられ、大津波が発生したことにより、多くの方々が犠牲となってしまった。

 

 

 この震災のなかで、太平洋に面した岩手県釜石市内の小中学校に通う99.8%(帰宅した生徒5名を除くと100%)の生徒は津波の犠牲にならなかった。あれだけの大津波に襲われた釜石市で、子どもたちはなぜ自らの命を守ることができたのか。また、0.2%の生徒は、なぜ亡くなってしまったのか。そして、長年進められてきた行政主体の防災に頼りきった地域住民に対し、著者の片田氏はどのように災害や防災への意識を高めていったのか。本書では、片田氏が実践した取り組みについて知ることができる。

 

 

 私たちは、「ここはハザードマップでは安全地域になっているから、津波警報が発表されても今回は被害がない」「防潮堤や治水対策が万全である」といった固定観念をもち、異常事態にもかかわらず、都合よく危険を軽視してしまう傾向がある。そして、「防災は行政が行うもの」と自分自身には関係のないことと考えている人が多いであろう。そんななかで、「自分の身は自分で守れ」と言われても、平和な日本社会において実感をもてないのが現状ではないか。

 

 

 片田氏は、「危機管理アドバイザー」として、震災前から同地域の小中学生に対し、どのように「防災教育」に関する知識や重要性を伝え主体性を持たせたのか。「防災」について知ってもらうために、津波の恐ろしさをイメージさせるような「脅しの防災教育」を行わなかった。また、津波に対する知識を得ることで考えが固定化し、状況に応じて機転を利かした行動が取れない「知識の防災教育」も行わなかった。なぜ津波により多くの被害者が出てしまったのか子どもたち自身が考え、防災に対する主体的な姿勢を醸成させる「姿勢の防災教育」を、片田氏は実践したのだった。

 

 

 釜石の子どもたちは、このような防災に対する考え方を身につけたからこそ、想定にとらわれず被害を自分たちでイメージできた。また、地域の主導者となり、子どもたちが率先して逃げることによって大人たちが引き込まれるように避難し、地域に住む多くの人たちの命を守り抜くことにつながった。それは、「防災」で一番重要な「死なないこと」を忠実に実践した結果だったのだ。

 

 

 東日本大震災を受けて、防災に対する国民の考え方が変わろうとしている。そのなかで、自分自身の身を守るには何が必要なのか。固定観念にとらわれていないか。津波災害が発生した場合、率先して何をしなければいけないのか。そんな「生き残るための指針」を提起した一冊である。

 

 

辻 輝之(2012年CoSTEP選科生 北海道)