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「マーケティング直観”を体得する」9/19川上慎市郎先生の講義レポート

2015.10.14

レポート: 石宮 聡美(2015年度 本科/生命科学院修士1年)

今回は、グロービス経営大学院大学の川上慎市郎先生を迎え、マーケティングについて学びました。講義はケースメソッドという教育方法を用いて、講師と受講生が議論する形式で進められました。

反転授業でモデルケースの理解を深める

今回の講義はあらかじめ配布された資料を読み、講義に参加する反転授業を取り入れていました。受講生は事前資料を基に、講義前にディスカッションを行いました。モデルケースは、ロレックスの並行輸入品の販売専門店であるエバンスについてです。1995年当時、エバンスは並行輸入で仕入れたロレックスを激安で販売するだけでなく、正規代理店にも劣らない独自の保証を付けることで、顧客を集めていました。しかし、競合他社が参画を始める中、エバンスの徳永社長は今後の経営方針について考えていました――ディスカッションでは資料を読んで考えたことを班に分かれて話し合いました。そして、内容への考えが深まったところで午後の講義に臨みました。

まずは商品を取り巻くものについて考える

「この中でロレックスを持っている人は?」「知り合いがロレックスを持っている人は?」

講義はいくつもの質問を受講生に投げかけながら進められました。商品やお店の話をするときは、それがどんな商品なのか、誰がどんな気持ちで持っているのか考えることは大切なことだ、と川上先生はお話しします。商品の持つ性質について分かったところで、次に時計店の話題に移ります。駅前の家電量販店の時計売り場はどのような所だろうか?そこにロレックスは置いてあるだろうか?また、あなたの地元の時計屋さんは?――川上先生の問いかけは矢継ぎ早に続きます。ロレックスと時計屋さんをキーワードに想像を膨らませたところで、モデルケースの考察を始めます。

経営方針を考えるポイント

モデルケースのエバンスは1995年、東京青山の裏路地に構えるロレックスを激安で販売するヴィンテージ店としてとても繁盛しており、チラシが入った途端に目の色を変えてお客さんが並びにくるようなところです。ですが、競合他社の参画が始まる中で徳永社長は経営方針について考えをめぐらせます―――「今後のエバンスの方向性」にはどのようなものが考えられるだろうか?ここでは受講生から、大きくわけて3つの意見が挙がりました。

①インターネットが普及し始めたころなので、インターネットを活用した広報や通信販売を行うのがよいのではないか。

②行列ができるほどお客さんが集まるならば、多店舗展開すればよいのではないか。

③ロレックスの仕入れ数や品揃えを増やしたり、ロレックス以外のブランドも取り扱えばよいのではないか。

これらの3つの案で多数決をとった結果、②の多店舗展開に僅差で票が集まりました。それぞれの案を選ぶ際のポイントは「顧客」と「将来性=トレンド」があり、話題は「トレンド」に移ります。

将来の客や競争相手のトレンド

トレンドを掴むためにはどうしたらよいでしょうか。ここで考えるべきトレンドには「顧客」のトレンドと「競合他社」のトレンドの二つがあります。エバンスの競合相手として挙げられたのは、ロレックスの正規代理店・量販店・エバンス似の中古ブランド業者・ネットオークションです。そして、顧客が商品を購入する際の判断の要素として「信頼性」「価格」「保障」「距離」の4つが挙がりました。これらの要素を図解することで、エバンスの現在の位置と今後の方向性を考えていきます。縦軸は「価格」、横軸は「信用」をとって、競合他社とエバンスをプロットするワークから方向性が見えてきました。エバンスがとるべき方向は大きく二つ、

1)価格を上げて信頼を上げる;正規代理店化する

2)価格を下げて信頼を下げる;量販店化する

があります。そして、次に考えるべき要因は「顧客」です。顧客のニーズによって、今後エバンスがどちらに進むべきか決まります。まず、現在のエバンスの顧客層は、「ミーハー」「ステータス」「マニア」「ギフト」の4つが考えられます。この中から今後増える客層はどれなのでしょうか。客層を考えるにあたり、時間の流れと客層について(プロダクトライフサイクル)を図解していきます。横軸は時間、縦軸は顧客数としてそれぞれの顧客層をプロットしながら今後の動向を予測しました。

ここまでの流れを踏まえて、議論をはじめた時と同じ質問が投げかけられました。「今後のエバンスの方向性は?」――受講生の回答分布は、様々な考察を経た結果、始めの多数決とは異なっていました。

それでは、徳永社長が実際に出した答えは何だったのでしょうか?

 

マーケティングの本質

講義を終えて、「マーケティングは感覚的なものと思われがちだが、95%がロジック、残り5%は心理戦である」という言葉が印象的でした。今回の講義では一つ一つの流れを論理的に追うことで、マーケティングの本質的な考え方に触れることができました。この考え方は、科学技術コミュニケーションのためのイベントやコンテンツを企画する際にも十分応用できる内容だと感じました。川上先生ありがとうございました。